◆フォーミュラE開幕戦で見えた!/ ⑨プロストとハイドフェルドのアクシデント
ポール・ポジョンからスタートしたプロスト車。レースを終始リードしたが、残り僅かで接触リタイア。
◆フォーミュラE開幕戦で見えた!/ ⑧から続く。
◆安全性も新時代!!
最終ラップの最終コーナーで、トップバトルに異変が起きた。ポール・ポジションからトップを走るニコラス・プロストと、予選6番手から、マシン・チェンジのタイミングで2番手に進出していたニック・ハイドフェルドが接触した。
1秒以内の差で最後の数周を走っていた2台を、固唾を呑んで見守る観客。最終コーナーでハイドフェルドが一瞬右に出て、次の瞬間、最後のコーナーのインサイドである左にマシンを振って、プロストの横に並んだ。右から行くと見せかけるフェイントに見えた。
一瞬ハイドフェルドの姿を見失ったプロストは、左に突然現れたマシンに驚いたかのようにハンドルを反射的に左に切った。そこはまさに最終コーナーへのアプローチ部分でもあったが、プロストがハンドルを切ったことで2台は接触、絡み合ってハイドフェルドはスピンし、コーナー手前の縁石に撥ね上げられて宙を舞い、反対側のガードウォールに当たって2回転した。
一瞬、背筋が寒くなるアクシデントだったが、ややあってハイドフェルドは自力でコクピットを抜けだし、場内から、安堵のため息と拍手が沸いた。
このアクシデントをピットのモニターで見ていたプロストの父アランは、それまでの笑顔を引きつらせて顔を覆った。それは、息子が記念すべきレースのウィナーの座を失ったからなのか、それとも、息子に非があると見たからなのか。
ところで、ハイドフェルドは、900kgもの重量のマシンで空を飛んでウォールに激突したが、マシンの安全性と、HANSの装着で怪我をしなかったのだが、もうひとつ、ハイドフェルドを救ったのが”Tec Pro”と呼ばれる衝撃吸収防御壁である。
通常のバリアは、タイヤをコンベアベルトで巻いて作られるが、Tec Proは、専用設計。衝撃吸収能力が高く、さらに表面がタイヤやコンベアベルトと違って滑りやすいために、さらにエネルギーを分散できる。
フォーミュラEが新しいのは、なにからなにまで電気でまかなうことだけでなく、そうした安全性を含めて新時代を創造しようとしているのではないか。最後に、インパクトを与え、語り種になるはずのアクシデントの陰に、そんな思考回路を感じた。
(了)
[STINGER]山口正己
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