ホンダF1復帰特別会見全録3/4
(ホンダF1復帰特別会見2/4からつづく)
第三期は、惜しまれつつ”撤退”を余儀なくされた。 photo by [STINGER]
『ターボコンパウンド技術をF1で鍛える』
◆撤退からの復活
—-第三期を撤退するに当たって、休止ではなく、撤退という表現でしたが、今回復帰するに当たって、社内では、何をもって、その考えを覆したのか、経済的なものだったのか、それとも、レギュレーション変更が最大の理由だったでしょうか? また、第三期にやり残したこともあると思います。社内で、”これだけはやらせてほしい”というようなことはありますか?
新井:撤退という言葉は非常に重いと受け止めていますし、いまでもそう思っています。しかし、あの時点で、あの言葉を使うというのは、社内的にも意味があって、ホンダの置かれている当時の状況で言うと、社内的にも対外的にも、撤退という言葉を使うような厳しい状況にありましたので、あえて撤退という言葉を使ったのだと、私は理解していますし、社内のメンバーもそう思っていると思います。
技術者としてみると、やはりそれは悔しい思いをしているわけで、ある程度形が見えてきて、”イケルのではないか”と思った矢先の撤退ですから、エンジニアとしては非常に悔しいと思います。ですが、その後、引き取っていただいたチームが成績を残している、車両設計はホンダがやったのだ、ということで、自分たちが技術としては達成しているのだ、という自負も持っているし、結果も出たということで、技術的にはある意味満足しています。ただ、自分たちでできなかったという複雑な思いのままこまで来ているというのが正しい理解かな、と。
社内は、レース好きが多いもんですから(笑)、そっちこっちで、F1やろう、いろいろなレースに参加していますが、いつの時代でも、やるんであるというのがホンダのエンジニアの気持ちなんではないかと思いますし、環境技術が世の中で注目されているなかで、チャレンジしがいがある、ということは、我々エンジニア側からも非常によいタイミングですし、いまここでやらなくてどうするんだ、というようなことが、社内の思いであります。
—-パワーユニット全体を開発するなかでマクラーレンとの関係の上で、全体を見る方は栃木研究所の中にいらっしゃるのでしょうか?
新井:パワーユニット全体の開発で言いますと、F1のプロジェクトは私が責任者を務めさせていただきますので、私のところにそれぞれのパートの責任者がいる、という形です。
—-実際に2015年に供給するものができるのは、来年のいつごろになるでしょうか?
新井:今年の秋ころに2015年を睨んだ一番最初に作るエンジン回して、来年のあとの方だと思いますが、まずは、システムとエンジンをくっつけたベンチでのテストが主流になるのではないかと思います。
—-レーシング・エンジンの場合、単気筒で回したりするようですが、いまはそういう時代ではないのでしょうか?
新井:もちろん、単気筒実験的にやります。シミュレーションの単気筒でやっていって、エンジン・ユニットとしてできるのが秋くらい、ということです。
◆世に出ていなかったターボコンパウンド技術をF1で鍛える
—-単気筒はすでにあると?
新井:いまちょうどテストをこれからしなければいけない、まだできていませんが、発表してまだ間もなくて、非常にバタバタと頑張っている最中ですので、是非、応援をしていただきたいと思います(笑)。
—-その単気筒では、面白いことをやったりしているのでしょうか?
新井:まず、燃料コンセプトをきちんとまとめなければいけないので。ボアは決まっていますので、バルブのレイアウトとか、傾きとか、いろんな要素を単気筒で検討して、そのテスト結果を元に、燃焼室を設計していきます。
熱エネルギーの回生は、市販車技術にも直結する。F1参戦で開発スピードは圧倒的に高くなる。
写真は、ルノーの2014年エンジンの赤熱したエキゾースト・パイプ。この熱をどう使うか。
Photo by Renault Sport SAS
—-来年のレギュレーション改正のポイントである熱回生について、具体的にどのような方法をお考えか。タービンを排気で回す方法、温度差で電気を得る方法とか、いろいろあると思いますが、他の参戦メーカーと考え方で大きく違ってくるものなのか、それとも、ある程度同じようなものなでしょうか。
新井:方向性としては同じ方向です。排気熱でタービンを回して、そこで発電する、という方向ですね。何が魅力的かというと、いままでそういう、ターボ・コンパウンドといわれる技術ですが、言われていながらなかなか世に出てこないものでしたので、ここできちっと、F1の世界でまとめられれば、将来につながるのではないか、と私は思っています。
排気の熱は、空中に放出して、何の役にも立っていない。最近は空力に使っていますが、市販車で熱エネルギーを回収できるということは、クルマの効率を一気に上げる大きなチャンスで、熱をそのままエネルギーにするために、熱から直接発電するとか、水蒸気にして別のコンプレッサーを回すとか、いろんなことがありますが、きわめて現実的な技術ではないかと思っていて、将来的にそれが市販車につながる風に開発していきたいと思っていますし、そのためのレギュレーションであると期待しています。
—-マクラーレンとは、いきなり相思相愛状態(笑)だったのでしょうか。
佐藤:マクラーレンの考えは、ウィットマーシュさんに聞いていただくのがよろしいと思いますが(笑)、過去の関係がありますので、ホンダに対する技術力やレースの対する姿勢とか考え方は、理解していただいていたと思います。
—-市販車へのフィードバックの話がありましたが、マクラーレンの市販車へのエンジン供給は考えていますか?
新井:それは私どもが決めることではないので(笑)、なんとも言えませんが、マクラーレンがスポーツカーを作っていらっしゃることは知っています。まぁ、プライスレンジが大分違うというのがありますので、お話をいただいてから考えることになると思います(笑)。
—-市販車に技術がリンクすることはわかりましたが、マーケティングの面で、今回の参戦を有効活用していくようなことはありますか? 例えば、NSXの販売を予定されていますが、その辺りはどのように考えていくのでしょうか?
佐藤:ビジネスでの活用は、結果が伴う、ということで、まずは勝つこと、タイトルを取ることを目指してその結果を、どう使ってお客様の期待に応えていくために、まずはしっかりと成果を上げることだと思っています。
(ホンダF1復帰特別会見4/4につづく)
photo by STINGER