新井康久ホンダF1チーム代表に訊く-2 — 初走行について
◆急きょ走ったシルバーストンとアブダビテストでは、想定通りにたくさんのデータが取れた
・・・・シルバーストンのフィルミングデーで急きょ走り、アブダビのテストに参加しましたが、それもビックリしました。というのは、日本GPの段階の会見で、”動かせるクルマを作っている”段階と、正直、呑気なことを仰っていると思いました(笑)。その時、新井さんは、”みなさんが思っているような、来年のクルマということではなくて、ただ動かすだけです”と仰っていました。で、マクラーレンの今年型のMP4-29に積まれていることを知って、たしかに来年でもないし、新井さんは意外とタヌキかな、と思ったのですが(笑)、どういう経緯で走ることになったのでしょうか。
新井:いやいや(笑)。少なくても、2015年のクルマでやるには、準備を含めて相当な時間も必要なので、いまも着々と準備しているわけですが、この複雑なシステムをダイナモ(台上試験機)上だけでやってていいのだろうかということが不安になってくるわけですね。
・・・・不安になったのはいつごろから?
新井:まぁ、夏とか、それくらいです。不安になってくると、どうしようか、と考えるわけです。で、そうはいってもクルマはないし、ダイナモで全部やり切ることも考えるし、いろいろなチームの動向を見ていると、1月のヘレス・テストから順番に、第一戦を経てだんだんクルマが成熟してくる、と。となると我々もけっこう大変なんじゃないかという感じも想像の中であって、できるものなら”クルマの形”にしてみたらどうなのだろうか、という議論が始まる。で、形にするにはどうしたらいいのか、ということになる。いろいろあるわけです、昔のクルマに無理やり載せるとか。一番無理くり載せられそうなのが(マクラーレンの)MP4-29が、ハイブリッドであり、システムとしては全部搭載されているスペースはあり、それと今年からのレギュレーションでいうと、ボディとのピッチは全部決まっているわけですね。
・・・なるほど。
新井:すごく簡単に言うと、ゼロから設計はしなくていいだろう、というところのイメージからスタートしたのです。
・・・・それは新井さんの方からマクラーレンにお願いしてそうなったのですか?
新井:お互いに、ですね。で、やるか、と。しかし、やる、となるといろいろ大変なわけです。我々もマクラーレンも(笑)。マクラーレンはシーズン中なのでレースをやっているし。とにかくクルマにする、というのは凄く大変なことなので。
・・・・日本グランプリの時に”作っています”というのはそのことだったのですか?
新井:そうですね。なにか動かせるものが必要かな、と。
・・・・それがMP4-29だったのですね?
新井:ええ。
・・・・やっぱり騙された(笑)。
新井:いや(笑)、別に29と言わなければならいところまで聞かれてもいないし(笑)。
・・・・たしかに、”みなさんが考えている来年のクルマ”じゃなかったですね(笑)。
新井:嘘は言ってないです(笑)。
・・・・たしかに(笑)。
新井:いや、そこで、こんなクルマで、と言ったら期待値が凄く上がってしまうことも考えました。なので、別に騙したわけでもないし、あまりみなさんをあおっても、と思って、”我々の計画で進んでますよ”ということを言いたかったし、クルマがなくてシステムをどうするんだ、と言われていましたよね。そこに対して、クルマにたいしてもやっていますよ、と言ったまでです。
・・・・でも、ちょっと言い方が違いましたよね(笑)。
新井:(笑)。
・・・・とはいえ、動くことは動いたけれど、シルバーストンは2周、アブダビも連続周回ができないままでした。どんな印象でしたか。
新井:うまく走れなかったことについては、大きな収穫だったな、と。もちろん、100%ちゃんとできていれば”うまく行った”ということになりますが、そんなうまい話はないだろうな、と思いながらテストに臨んでいて、案の定いろんなことが出ました。周りから見ると、”走れないじゃないか”ということになりますが、その通りではありながら、そこでえられたものは、たくさんあって、第一ステップはちゃんとクリアーしたな、と思っています。
・・・・第一ステップといいますと?
新井:そうはいっても数ラップ走っているわけですから。
・・・・まず、動いた、ということですね。
新井:ええ、動いた、ということと、動かすときの最初の車体との通信やいろいろなところに不具合がでるか、ということが確認できました。きっとそうだろうな、と思っていたことが、案の定で、それは最大の収穫で、それをちゃんと整合を取って、次のステップにいくためのいろんなデータ
が取れました。
が取れました。
・・・・ドライバーを(ストフェル・)ヴァンドーンにしたのは、ホンダが決めたのですか?
新井:最終的に誰を乗せるか、というのは、もちろんマクラーレンが決めるのですが、そんな感じのメンバーしかいないね、と。少なくとも、レギュラー・ドライバーは乗れないので、そうなると、F1をちゃんと運転できる、となると限られてくる。で、マクラーレンの育成ドライバーの中から選んでくることになり、オリバー・ターベイが最初(シルバーストンのフィルミングデー)に乗って、アブダビでは、(コースを経験している)バンドーンにお願いした、ということです。
[STINGER]山口正己
Photos by
Honda Motor Co., Ltd. (MP4-29H/1X1を走らせるヴァンドーン)
STINGER (新井康久ホンダF1チーム代表)