GPホットライン 09-06 モナコ(パート-1)
◆あの”危なさ”は、ハンパじゃない!
羽端恭一(以下、羽端) モナコは……壮大な”祭”であるらしいことは、ある程度想像できるけど、ひとりのレース・ウォッチャーとしては、このイベントの”意味”は実はよくわからない?!(笑)
STINGER-山口正己(以下STG) たしかに。こっちも始めて来た頃は本で見ていておおかた知っているつもりだったけれど、実際は相当違いました(笑)。まず、”危なさ”が凄い。
羽端 いや、それはそう! まったく否定しません。
STG それから、階級社会を思わせるすべてが凝縮しているレースという気がします。
羽端 うーん、そうですね。”ヨーロッパ臭さ”の極致というか。それを、どう感じるかでしょうけど……。
STG 第二期のホンダで監督をやっていた桜井縮敏さんから聞いた話が、モナコを良く現していると思います。
羽端 というと?
STG 他のレースは”観客に見せてあげている”というイメージだけど、モナコは”見ていただいている”と。
◆動くに動けないような、達人同士の勝負の魅力
羽端 なるほど。でもそういう側面はあるとしても、モナコで一番不満なのはね、レースが始まったら、ドライバーの「意志」が状況に反映されないこと。簡単にいえば、速度差があっても、前のクルマを抜けない。フォーミュラ・レーシングがドライバーの腕のくらべっこだとしたら、その違いを見せられないというか、観客は見ることができない。
STG たしかに。しかし、前を走るドライバーの立場になると、ちょっとしたミスで抜かれる可能性があるわけです。
羽端 でも実際には、そういう場面でもなかなか抜けない。まあこれは、勝手な観客としての言い草なんですけどね。
STG 重量級の柔道の試合とか、あるいは相撲でも、双方がマンジリとして動かないことがあるじゃないですか! 下手に動くと、動いた方が一本取られる。
羽端 なるほどね。高見の見物みたいなことではなく、一歩踏み込んだというか、そういう視点が必要なんでしょうね。
STG そうです。たとえば、1992年のセナとマンセルの闘いは壮絶でした。セナが前で、マンセルが後ろで。結局、抜けなかったんだけど、煽るマンセルと、抜けないことを知っていて、からかうようにラインを閉めるセナ! そういう図式でね。
羽端 もちろん、ほかにも「抜きにくい」サーキットはいっぱいあって、ここだけではないですけどね。
STG 抜けない、抜けないけど、でも、抜こうとする。大きなリスクを背負ってね。
羽端 ええ、そういう”凄み”はある。そもそもね、”あんなトコ”をフォーミュラで走るというのが、ちょっと正気じゃない!(笑)この点は目一杯認めます。そして、深~く、リスペクトもします。
STG 今年でいうと、予選でギリギリの燃料でアタックしたレッドブルのフェッテル。マジでポールを狙いにいっていたから、果たせなかった予選後は相当悔しそうな顔をしてました。中嶋一貴の最終ラップのクラッシュも、ある意味”大人しいだけじゃないよ”というところを見せておきたかったんだと思います。もちろん、本人はそんな下品な表現はしませんけど(笑)。
羽端 なるほどなぁ。
STG あとはマッサも果敢だった。結局、予選でスピンしてガードレールにノーズを擦って、結果としてチームメイトのライコネンにやられているわけで、ナニが何でもファステストラップを奪っておきたかったんだと思います。フェラーリはブロウンに次いで足がしなやかで、シケインの乗越えもスムーズだけれど、マッサの走りは壮絶だった。
羽端 だから半ばジョークでいえば、予選だけでいいんじゃないですか、モナコは?(笑)。
STG アハハ、もしかしてそうかも。あそこを「走る」ってだけで、十分凄いし。
羽端 ……で、一台ずつ、全員がクリアラップで、いったい誰が、どこが、速いのかを決める。
STG でも、今年のバトンにしても、非常に安定した動きで楽々走っているみたいだけれど、何しろレースは78周だから。その間、かすかにでもミスできない。だからゴール後の喜び方が半端じゃなかったでしょ? バリチェロも、2位なのにメカニックと抱きあって喜んでいた。あれは、いかに大変な仕事だったか、ということなワケですよ。
羽端 そういうことが見えるにはどうすればいいかな。
STG モナコのレースに一度出てみる(笑)。
羽端 うん、エントラントは一番おもしろいでしょうね。ただ、だからこそ観客は……って、また最初のハナシに戻っちゃうんだけど。
STG さっき、観客も、もっと「踏み込んで」見るべしといわれたじゃないですか!(笑)