日本GPの余韻◆その2—アロンソの不可思議なコースアウト—
マクラーレン・ホンダは、鈴鹿で力を出せなかった。理由は、鈴鹿サーキットの特殊性。マシンに対する要求が大きいコースで、セッティングがピッタリ来ないことでグリップ不足が露呈し、残念な結果に終わった。
マクラーレン・ホンダが不振だった原因は、いくつか思い当たる。まずは、長谷川祐介F1プロジェクト総責任者が目標設定をリセットして来期に向けて雪辱を誓っているエンジンパワーの問題。特にメルセデスに比べると、電気関係の部分は問題ないものの、エンジン本体のポテンシャルが、シーズン前の想定レベルが、シーズン中に開発を進めて追いつくレベルではないものだったこと。
仮にシャシーが、メルセデス、レッドブル、フェラーリに比べて格段に性能が上ならパワーのなさをカバーできるが、そうではなかった。長谷川総責任者のコメントを借りれば、「その分を取り返せるエンジンではない」ということだ。
一方で、ドライバーのポテンシャルに心配の声も聞こえる。鈴鹿のセッション初日の金曜日、フェルナンド・アロンソがスプーンカーブでコースオフした。ヘアピンを立ち上がってまっちゃんコーナーを右に緩く曲がり、左→左とハイスピードでコーナリングする最初の左でアロンソのマクラーレン・ホンダはコースを外れた。
ここまでなら、限界を試しているという解釈もできなくもないが、その後が、エッと思わせた。アロンソは、リヤからガードレールにヒットした。名手らしくない状況だった。
そこは、クラッシュする場面を観ることはほとんどない場所。他のカテゴリーでも、コースを外れる場面は時々みかけるものの、たいていはガードレールに当たる前に止まっている。止めている、という表現の方がいいかもしれない。
しかし、アロンソは、リヤからガードレールに当たった。ギヤボックスを傷めて、ペナルティを取られるか心配したが、しばらくして走行を再開したのでその心配は不要だったが、フリー走行が始まってまもなくの出来事に、別の不安が頭をよぎった。
フェルナンド・アロンソは、現役ドライバーの中では、ルイス・ハミルトンと並び称されるテクニシャンのはずだ。それがクルマを壊すことを最も避けなければならないフリー走行1で軽いとはいえクラッシュを喫した。
開幕戦のオーストラリアGPのクラッシュや、去年の開幕前の”感電事件”でも、テクニシャンらしくない状況が見え隠れした。テクニシャンとして知られながら、テンションが下がってしまった1988年のネルソン・ピケの状況が思い出された。
もちろん、クルマが思い通りにならないことから、そうした事態が起きている可能性もあるけれど、フェルナンド・アロンソは、そういうことも乗り懲りるテクニシャンだったはずだ。
来年、天才の誉れ高いストフェル・ヴァンドーンがチームにやってくる。ちょうど、ベネトン時代のピケにチームメイトとして、ミハエル・シューマッハが登場したように。
残り4戦で、マクラーレン・ホンダとアロンソが、戦闘力のあるところを証明してくれるレースに期待したいところだ。
[STINGER]山口正己
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MERCEDES AMG PETRONAS Formula One Team
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