HAMMY’S EYE 2011 <トルコGP→スペインGP>
話題山盛りの新シーズンも4戦を消化した。スペクタクルな戦いをより楽しむための[STINGER]特別企画。ブリヂストン・タイヤとともに14年間F1 を直近で見つめたハミーこと浜島裕英さん(ブリヂストンタイヤ開発第2本部フェロー)の視線で迫る、”タイヤからみた次の見どころ!”。
◆タレ始めを的確に察知する
STINGER山口正己(以下STG ):ここまでの4戦は、同じタイヤできました。次のスペインGPでもピレリは、ソフトとハードの組み合わせを供給すると発表しています。4種類存在するコンパウンドのうちの、一番硬いのと、二番目に柔らかいものですね。スペインの次のモナコは、スーパーソフトとソフトの組み合わせになるようですが、同じタイヤで4戦も戦えば、ドライバーもチームも、そろそろタイヤの性格がつかめた頃ではないかと思いますが。
浜島裕英ブリヂストンタイヤ開発本部長(以下、浜島)そう思います。
STG:現在供給されているタイヤを上手に使うには?
浜島:行けるところ(グリップが落ちる直前)まで行って、グリップダウンを感じるところまで走って、ちょっとでも性能が落ちたら交換する、というのが一番だと思います。
STG:ぎりぎりまで走るわけですね。
浜島:そう。中国のベッテル(浜島さんはフェッテルをこう呼ぶ/レッドブル)がタイヤ交換を1回減らしたら、4回交換のハミルトン(マクラーレン)にやられましたね。
STG:でした。
浜島:トルコGPでも、バトンが、タイヤ交換のタイミングが悪くて低迷しています。
STG:バトンは、「最後のピットインを早く入りすぎて、その後が辛くなった」と言ってます。
浜島:もうひとつは、新品タイヤでスタートするのと、中古でスタートするのでは、タイヤの持ちが違うようですね。なので、新品を予選で節約した方が上位を取れるんじゃないかな、と。チーム力が似たところを比較してみていると、予選で、タイヤを節約した方が上位でゴールしているようです。
◆タイヤ温存のために予選を走らない?!
ブエミ(トロロッソ)との接触でパンクしながら、可夢偉は僅か12秒のロスでピットまで戻ったのは見事。(photo:Hiroyuki
Orihara)
STG:トルコGPの可夢偉がそのいい例だった。
浜島:ですね。
STG:結果論ですが、可夢偉は、フュエルポンプのトラブルで予選を走れなかったので、結果として柔らかい方のタイヤが全部残っていました。そういう意味で、全員がタイヤを学習して、下手をすると、予選を走らない、という作戦が出たりしませんかね(笑)。
浜島:それは分かりませんけど(笑)、中国GPのウェーバーは、Q1で敗退して、やはりタイヤを残っていたので、18位から追い上げて表彰台に立っていますね。
STG:みんなQ1でやめちゃったら困りますね(笑)。
浜島:マッサ(フェラーリ)も、トルコGPで、Q3まで進んだけれど、Q3を走らなかったですからね。フリー走行で自分の実力分かったら、Q3は無理せずに、タイヤをキープの方がいいかもしれないですね。
STG:可夢偉が、タイヤをバーストさせて、12秒しかロスしないでピットに戻りました。
浜島:彼は前からああいうのが上手ですからね。それから、波長を変えて取り組む。
STG:波長を変えるとは?
浜島:ピットインのタイミングをずらしたり。もっとも、上位にきたらなかなか簡単にはできないと思いますが。
◆崖か落ちるようグリップダウン
STG:今の状況では非常に頭脳的ですね。ところで、テレビで、解説の片山右京さんが「寿命が来てしまうと、まるで”崖から落ちるかのように”ガクッと、極端に、また一気に、性能が低下してしまう」と、表現しています。
浜島:言ってますね。
STG:タイヤがタレると一言で言っても、その性能の落ち方は、いくつかパターンのようなものがあるのではないか、と思いますが。
浜島:一般的な話になりますが、タイヤの劣化に関しては、二通りあります。
ひとつは、ゲージ、トレッドの山ですね、それが減って、つまリ磨耗してグリップ悪くなる。
STG:もうひとつは?
浜島:路面の入力でゴムが叩かれて機械的な疲労をした減り方があります。例えば、鉄板を叩いたとしても、ほんの小さな入力なら叩く回数が増えても壊れない。でも、入力を大きくして叩くと、そのうち破れます。ゴムも同じで、路面に叩かれると、分子から切れて行って本来の性能が出なくなる。このふたつでタイヤの性能が決まってきます。
STG:単に減るだけではない?
浜島:です。磨耗はしきい値というのがあって、タイヤによって違うけれど、例えば、5mmの深さのトレッドがあったとして、残り1㎜になるまでは徐々にグリップダウンするけれど、そこからはグリップしない、という値です。そのしきい値、今挙げた例では、1mmから極端にグリップが下がることはあります。
STG:可夢偉は、”それがいつくるかわからない”と言っています。
浜島:ゴムカスの多さからみて、磨耗が早いのだと思いますが、そうだとすると、グリップダウンの場所は分かりづらいかもしれないですね。
STG:崖から落ちるような、という表現はいかがですか?
浜島:ラップタイム見ているとそう見えます。
STG:それは、例えば1分30秒のコースでは、どのくらいの落ちでしょうか。
浜島:1周にコンマ5秒ずつ、下手すると1秒とか落ちるとそう表現すると思います。それを感じ取ったときにすぐピットインすることですね。そのままにしておくと傷口が大きくなる。
STG:去年までは、一端グリップが落ちても、タイヤを冷やしたりすることで、グリップが復活すると場合がありました。
浜島:タイヤ見ていないから分からないですが、オーバーヒートによるグリップダウンなら冷やせばグリップは戻るけれど、ゲージが減った結果だとしたら、グリップは戻らないですね。
◆カタルーニャ・サーキットは、タイヤに負担が少ない
STG:さて、バルセロナのカタルーニャ・サーキットは、タイヤにとってどんなコースでしょう。
浜島:最終コーナー前にシケインができてからは、タイヤには楽なコースになりましたね。
STG:ということは、タイヤを温存しても、レースであまリ逆転劇が期待できない?
浜島:いや、そう単純ではないと思いますよ。
STG:楽しみに見物します。
浜島:私も(笑)。
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