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KERSの行き場はいずこ


3月19日に、ルノーがKERSを使って開幕戦を戦うことを表明した。どうしてルノーだけ?という疑問が浮かぶ。しかし、そこには、周到な”準備”が見え隠れする。


ブレーキのエネルギーを溜め込んだバッテリーの蓄電で、7秒間だけモーターを加速に使えるシステムは、一見、有利に見える。キネティック・エネルギー・リカバリー・システムはしかし、30kgは増えると言われる重量や、モーターの特性で瞬間的に発生するトルクのコントロール方法など、問題もある。

すでにトヨタは、3月16日の2009年モータースポーツ活動発表会で、山科忠チーム代表が「開幕戦では使わない」と発表し、同じトヨタ・エンジンを積むウィリアムズも、ドライバーの中嶋一貴が、「いつから使うか決まっていない」とコメントしている。レッドブルのセバスチャン・ベッテルは、「瞬間的に60馬力が増加するので、気をつけないと」と、トルク変動のないモーターの特性を表現し、滑りやすいウェット路面のコースでKERSを試したトヨタのテスト・ドライバー小林可夢偉は、「チームは無線で”踏み続けろ”と叫んでいたけれど、ウェット路面では無理無理」とエンジンと違って瞬間的に最大トルクを発生するモーターの性格を表現した。

さらには、そもそもKERSを有効に使えるバッテリーは地上に存在しない、という声まで出ている。いったい、どのチームが使ってどこが使わないのか。この疑問の答は、「フタを開けるまで分からない」というのが正しそうだ。仮に決まっていたとしても、それを読まれることを考えたチームが、おいそれと本当のことは言うはずがないからだ。 “敵に塩を送る”ような無防備な言動は、F1チームでならずとも、狩猟民族の思考回路では最も嫌うところだ。

ではルノーのテクニカル・ディレクターのパット・シモンズは、なぜ「KERSを使う」と表明したのか。唯一、ルノーのフラビオ・ブリアトーレ代表が、こう考えたなら辻褄が合う。”厳しい経済状況の中でKERSを使うことが、カルロス・ゴーンの興味をつなぎ留める最良の方法だ”と。

今年のF1は、いかにして節減された予算の中でライバルを打ち負かすかという戦いになる。ルノーがKERS使用を表明した裏に、そうした思惑があるのだとしたら、KERSじたいの有利さではなく、ルノーは体制の準備の上で戦いを一歩リードしたといえるかもしれない。

(STINGER / Yamaguchi Masami)


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