マクラーレン「MP4-28」解説&スペック
■「MP4-28」解説
マクラーレンは、昨年20戦のうち、L.ハミルトンが4勝、J.バトンが3勝を飾った。惜しくも、フェラーリに22ポイント差で2位を譲ってシリーズ3位。しかし、今年はそのマクラーレンにとって貴重な年になる。
2014年のエンジン変更に伴う大きな車両規則変更を前に、今年のレギュレーションは、ニューマシンに”変革”を求めるものではない。だが、マクラーレンにとって今年は、特別な年。ロン・デニスのプロジェクト4が買い取ったのは1980年だが、ブルース・マクラーレンがチームを誕生させたのは1963年。歴史を大切にするイギリスの例に漏れず、マクラーレン・グループを率いるロン・デニスはもちろん、現在のチーム代表であるマーティン・ウィットマーシュも、古きを重んじ、そこからより高いステージを目指す思考回路の持ち主である。今年は、マクラーレン創設50周年の記念すべき年だとなれば、彼等のモチベーションはいやでも高くなる。
F.アロンソがチームに加わった2007年、マクラーレンは、バレンシアで強烈な発表会を行なった。オリンピックの開会式と見紛うそのイベントには、ロン・デニスの友人が代表を務めるシルク・ドゥ・ソレイユもショーを披露。予算は10億円と言われた。
今回のニューマシン発表会は、それに比べると質素だが、他のチームの多くが、ひっそりと、発表会を行なう中で、マクラーレンのそれは50年を演出するものだった。新車発表に先立って、マクラーレンの歴史を飾ったマシンが登場する。
世界に名を広めたアメリカとカナダを舞台にした人気シリーズ”CAN-AM”で一世を風靡したオレンジ色のオープン2座席のM8Dを先頭に、フィッティパルディやセナ、ハッキネン、ハミルトンがワールドタイトルを奪ったF1カー、1995年に関谷正徳が日本人初のル・マンウィナーとなったマクラーレンF1-GT-Rが、テクノロジー・センター自慢の池の畔りを回って発表会場の建物に入ってくる。ステアリングを握るのは、長年マクラーレンF1チームのテスト・ドライバーを務めるゲーリー・パフェットを中心に、ケビン・マグヌッセンなどの若手ドライバー達。歴史あるものと若さを組み合わせた、マクラーレンらしい演出だった。
ただし、最後に、ロードカーのMP4-12Cのオープンと、開発中のP1TMに乗って登場したS.ペレスとJ.バトンが白いカバーを外した2013年シーズン用のMP4-28は、昨年型との違いを見つけるのが難しいクルマだった。
こちらも、3日前に登場したロータスと同じく、2014年の規則変更を前にして変動のない規則の中で、2013年を消化するマシンと言ってよかった。特にマクラーレンの場合、昨年、マクラーレンが技術協力するマルーシアを除いて、唯一、段付きノーズを持たないマシンだったため、段差を覆うカバーの使用が許可された今年に、そのパーツをハナから必要としていないから、変化は期待できない。
もちろん、細部は、S.ペレスとともに白いベールを剥がしたJ.バトンがコメントしたように、シーズンオフの間にテクノロジー・センターのメンバーの”ハードワーク”によって進化しているはずだ。とはいえ現代のF1の空力は、子細な微調整で、いわば重箱の隅をつつくような作業で進化をしていることもあり、なかなか外観から判断はできにくい。そもそも、この時期に、外から見てわかるような変化があったとしても、それを見せてしまうようなことはマクラーレンに限らずしないものだ。この辺りも、シーズンが始まらないと、本当の姿は見えてこない。
そんな中で、唯一といっていいマクラーレンMP4-28の大きな変更点は、フロント・サスペンションがプッシュロッドからプルロッドに変わったところだ。プルロッドにすることで、ふたつの利点がある。ひとつは、押すよりも引く方がロッドを細くでき、空力的に空気抵抗を少なくする意味で有利になること。もう一つは、プッシュロッドではボディ上方に装着されるボディ側のサスペンション・ユニットが、ボディ下側に着けられることから、重心が下がるところだ。
もちろん、そうした変更で細部の作り直しは必須だが、1月中に新車を発表したことで、開幕戦までの調整時間がたっぷり取れる。50周年記念のマクラーレンが、レッドブルとフェラーリとともに、トップグループを形成することは間違いのないところだ。
また、歴史を重んじるマクラーレンは、パートナーとの絆も大切にするが、すでに今年で32年目を迎えるヒューゴ・ボス、28年目を迎えるTAGホイヤーに続いて、日本のケンウッドが23年目の契約を更新したことも嬉しいニュースだ。また、ホイールのエンケイ、ブレーキの曙、バッテリーのGSユアサと日本企業がテクノロジーを支えていることも特記しておきたい。
「MP4-28」スペック
■シャシー
型式:MP4-28
モノコック:マクラーレン製カーボンファイバー・コンポジット/フロント&サイド衝撃吸収構造&サバイバル・シェル
サスペンション(前):インボード・トーション・バー/ダンパーシステム・プルロッド式ベアクランク(ダブル・ウィッシュボーン)
サスペンション(後):インボード・トーション・バー/ダンパーシステム・プルロッド式ベアクランク(ダブル・ウィッシュボーン)
エレクトロニクス:シャシー、エンジン、データ・コントロール・ユニット/電子制御ダッシュボード/オルターネーター電圧コントロール/センサーおよびデータ分析テレメトリー・システム(すべてマクラーレン・エレクトロニック・システムズ製)
ボディーワーク:エンジンカバー/サイドポット/ルーフ/ノーズ/フロントウイング&リヤウイング/DRS(全てカーボンファイバー・コンポジット)
タイヤ:ピレリ P Zero
無線:KENWOOD
ホイール:ENKEI
ブレーキ・キャリパー:akebono
マスター・シリンダー:akebono
バッテリー:ジーエス・ユアサ バッテリー
ステアリング:マクラーレン・パワー・アシステッド
計器:マクラーレン・エレクトロニック・システムズ
塗装:アクゾノーベル・カー・リフィニッシュズ製
■エンジン
型式:メルセデス・ベンツFO 108F
燃料搭載量:2.4リッター
気筒数:8
最大回転数:18000
バンク角:90度
ピストンボワ:98mm
バルブ数:32
燃料:エクソンMobil製 高性能無鉛ガソリン(5.75%バイオ燃料)
スパーク プラグ:NGK製F1専用レーシング・スパークプラグ
潤滑油:Mobil 1 エンジンオイル重量:95kg (FIA レギュレーション最低重量)
■KERS
タイプ:メルセデス・ベンツ
e-モーター:エンジンマウント電気モーター/ジェネレーター
ESS:集積エネルギー蓄電池、電動エレクトロニクス
パワー:60 kW
■トランスミッション
ギヤ・ボックス:マクラーレン製カーボンファイバー・コンポジット/積層型衝撃吸収構
ギヤ:7速+リバース
ギヤ・セレクション:マクラーレン・シームレス・シフト 手動式フライ・バイ・ワイヤ
クラッチ:カーボン/カーボン、手動式フライ・バイ・ワイヤ
潤滑油:Mobil 1 SHC ギヤオイル
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