ウィリアムズのギヤボックスがない?!
PDVSAの白いロゴの延長線上、ウィングステーの前の部分が問題の空間。
ウィリアムズが話題だ。「ギヤボックスがない」からだ。いや、ないわけはない。ちゃんとある。が、普通なら、デファレンシャル・ギヤが鎮座して盛り上がっているはずのリヤウィングの前のスペースがぽっかりと空いている。
通常、ギヤボックスは、ドライバーの背後に積まれるエンジンの後ろに着いている。リヤウィングの前、リヤタイヤに挟まれた辺りだ。その後ろに、回転方向を変えるディファレンシャル・ギヤがつく。
その昔のF1は、”エンジン”-”ギヤボックス”-”デファレンシャル”が、一直線に装着されていた。だが近代F1は、重心を下げるために、ギヤボックスの位置を下げ、その結果、タイヤの径で決まる高さに装着されるデファレンシャルよりも低い場所に着くようになった。その高さの差を、”ステップアップギヤ”と呼ばれる装置でつないで、デファレンシャルからの力をタイヤに伝えるドライブシャフトが、理想的な水平を保つようになっていた。
しかし、ここで、「空力」の魔力が、この常識を覆したい気分にさせるのだ。その”術”にウィリアムズのサム・マイケルがはまったかもしれない。
サム・マイケル・テクニカルディレクターは、ディファレンシャルの位置を下げることで、リヤウィングに当たる空気の流れを優先することを考えた。その結果として、デファレンシャルギヤの位置を低くし、だからウィリアムズFW33は、”まるでギヤボックスがない”ように見えるのだ。
空力的には確かに目的は達成された。他のマシンに比べてウィリアムズFW33のエンジンカウル後端は低く抑えられ、リヤウィングに効率よく空気流れが当たりそうだ。だが、違う場所に大きな不具合を抱え込むことになった。
デファレンシャル・ギヤの位置が低くなったということは、そこからホイールセンターを結ぶドライブシャフトに、大きな角度がつくことになる。ストレスがかかり、トラブルは必至だ。バンプでタイヤが持ち上げられれば、さらに条件は悪くなる。
かくて、サム・マイケル・テクニカルディレクターの”アイデア”は、大きな話題にはなっているが、今のところ、”外れ”の可能性が高そうだ。
[STINGER]山口正己