危機的状況を乗り越える体力と生命力
シューマッハと、マネージャのサビーヌ・ケム。彼らは依然、闘っている。
ミハエル・シューマッハが、危険な状態を脱した、という明るいニュースが届いた。しかし、依然としてシューマッハは闘っているところであり、安心できるものではないが、ここで、怪我とそこから立ち直るレーサーの関係について考えてみたい。まだまだ予断は許されないけれど、近代的な脳外科の治療レベルの向上とともに、シューマッハの強靱な体力が、危機を乗り越えるのに効果を発揮しているのではないかと思うのだ。
インディカーに参戦していたロジャー安川から、フィジカルトレーニングの考え方について興味深い話を聞いたことがある。インディカードライバーが体を鍛えねばならないのは、単純に体力を付けるためだけではない、という話だ。
オーバルコースは、かなりの確率でクラッシュする。その衝撃は、強烈で、2000年に松田秀士がインディでクラッシュしたときの入力は、160Gだったといわれるが、ロジャーは、クラッシュしたときの衝撃に耐えるために、フィジカルトレーニングは、必須だと言ったのだ。
強靱な体力があると、怪我が軽く済み、そこからの回復も、当然早くなる。事実、ロジャーも、クラッシュしたときに、日頃からのフィジカルのおかげで大きな怪我をしないで済んだという。
ミハエル・シューマッハは、トレーニング好きで知られる。シューマッハのフェラーリ時代の2000年ころのことだ。2輪の世界チャンピオンの原田哲也から、これまた面白い話を聞いた。原田が、ヘレスでテストをした日のことだ。
その日は、原田が参戦していたMOTO GPとF1が交互にコースを使っていた。自分がオフの時間にF1を見られるというので喜んだ原田は、その日は別のことで感激した。フェラーリのパドックに置かれた赤い大きなトレーラーのうちの1台の存在を知ったからだ。それは、トレーニング装置を積み込んだ”移動フィジカルカー”だった。
F1のテストの合間、2輪の時間になったとき、時間が空いているミハエル・シューマッハが、そのトラックの中に設置された自転車を漕いでいるのを目撃したのだ。「テストの合間までトレーニングするミハエルをみて、こりゃ、適わないと思いました」と、イタリアですさまじい人気を博していたトップライダー原田でさえも、両手を広げた。
揺るがない精神力もある。精神力というよりも生命力と言った方がいいだろうか。タイトルを7度も取った男の生命力が、強靱な体力とともに、いま必死で重い怪我と闘っているに違いない。