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ホンダに期待したいこと

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大切なのはスクラムを組むこと。左から、新井康久ホンダF1レーシング代表、ジェンソン・バトン、八郷隆弘本田技研社長、ロン・デニス・マクラーレン代表。

マクラーレン・ホンダ、苦戦している。いや、デビューの年であることを考えれば、苦戦は当然だ。問題は、その”苦戦”がどう伝わっているか、だろうか。

日本GPで、フェルナンド・アロンソとジェンソン・バトンは、11位と16位だった。まずは、この結果をどう見るか。

1988年に16戦15勝した”先代のマクラーレン・ホンダ”の戦績と比較すると、今年のマクラーレン・ホンダの結果はどうしようもないレベルである。しかし、この結果は、当然といえば当然の帰結だ。それは以下の理由による。

1)複雑なパワーユニットで、

2)1年遅れで参戦した

3)デビューイヤーであること。

4)そして日本GPの舞台の鈴鹿が、スパ-フランコルシャンやモンツァのように、パワーユニットの出力がタイムにストレートに影響するコースであり、

5)さらに、メルセデス、フェラーリ、ウィリアムズ、レッドブルのトップ4の合計8台が不動のトップ4にいる。

そう考えれば、バトンの16位は置いておいたとしても、現状を冷静に分析すればアロンソの11位は、決して悪い成績ではない。

しかし、11位を「好成績!!」と言っても、皮肉にしか聴こえないだろうが、遅いのはパワーユニットだけのせいじゃなくてシャシーにも問題がある、という意見が飛び交っている現状は、若干悲しい。この方向は、F1に限らず、モーターレーシングという戦いを評価するときにあまり芳しく傾向とは思えないからだ。

内輪もめを晒していいことはひとつも起きない。そもそも、ガッチリとスクラムを組まずして、トップグループに入るのは無理である。

現状のマクラーレン・ホンダは、パワーユニットもシャシーも、戦力不足であることは明白だ。そもそも、マクラーレンの現状のポテンシャルは、去年と一昨年で1回しか表彰台に登れていないことから、トップチームのそれとは比較できないものである。

パワーユニットが非力であれば、さらに条件は厳しくなる。パワーが低ければ、その分、空気抵抗を減らすしかなく、現代F1マシンを速く走らせるために最も重要なはずのダウンフォースを削るしかない。ならば安定した走行は望むべくもない。

アロンソのマクラーレン・ホンダが、鈴鹿で両脇から抜かれたのは、パワーが低く、抵抗を減らすために抵抗の小さいウィングを着けていたことで、立ち上がりのパワーオンが遅れ、加速が効かなかったからだ。

つまり、タイムが遅いのは、シャシーも当然関係しているのだけれど、充分なパワーが出ていない限り、シャシーのせいにするのはお門違い、ということだ。

もちろん、ホンダを応援する気持ちから、シャシーも問題あり、を指摘するのはありではある。けれど、シャシーの責任を追求した分だけパワーユニットが安心できるのかと言えば、当然ながらそんなこともない。

いまマクラーレン・ホンダに最も重要なのは、ホンダがF1という世界を知り、そこで戦える優れたパワーユニットを創り、マクラーレンがそれを充分に地面に伝えるシャシーを提供することだ。相手の粗探しをしている場合ではない。

ホンダF1レーシングの新井康久代表に、直接ご本人にお伝えしたことも含めて、これまで何度も、現状の実態を伝えるコメントをお願いしたのは、こういう事態を予測できたからだ。いや、私の予知力を自慢しても意味はないが、そうお伝えしたのは、以下のような理由からだ。

◆『F1』というフレーズの響き

ホンダが圧倒的なポテンシャルを見せ、中嶋悟さんが日本人初のF1ドライバーとして登場してナショナリズムを鼓舞し、アイルトン・セナやアラン・プロスト、そしてネルソン・ピケやナイジェル・マンセルなどのキャラクターの立つドライバーの活躍をフジテレビが伝えたことで、『エフワン』というフレーズは、あらゆる意味で輝く存在として日本に空前のF1ブームを巻き起こした。”マクラーレン・ホンダ”という固有名詞も、その時に、多くの日本人の意識に刷り込まれた。刷り込まれたのは、我々F1ファンだけでなく、広く一般の日本人にも同様であり、それなり以上のインパクトがあったはずだ。

しかし、時間とともに、『エフワン』というフレーズは風化し、極端な話、『昭和』という響きと同じように、なにやら古びた耳障りになっている気がするのである。多分、ファンではない多くの人は、いまや『エフワン』を新鮮な光り輝くフレーズと受け取ることができなくなっているようである。

状況を認識しているファンは、いまでも『エフワン』のポテンシャルを理解し、その言葉にシンパシーを感じているはずだが、多くの一般人にとって、マクラーレン・ホンダやエフワンがどう響いているだろうか。

仮に、マクラーレン・ホンダがいきなりいい成績を出したとする。多分、青山の本田技研工業株式会社本社外壁には、1988年の第二期のように、活躍を伝える幟が掲げられるだろう。しかし、多分、時間と共に忘れられ、それでオシマイである。

そうならず、その活躍がどれだけ高度で、難関を越えないと達成できないものであるかを、だからこそいまのうちから伝えてほしい。言い訳ではなく、チャレンジのクォリティを伝えるために、である。

ホンダから、「F1は、極めてクォリティの高い戦いであり、簡単には頂上を究めることはできない。しかし、時間がかかるかもしれないけれど、我々は必ず到達する。長いスパンで応援をお願いしたい」というコメントがあれば、ない物ねだりをすることなく、多くの日本人は、”その日”を期待しつつチャレンジを応援したくなるはずだ。少なくとも私はそうである。

エコと減税とぶつからないクルマのコマーシャルが横行して、すっかりゆめをなくしている日本の現状の中で、F1チャレンジがどれほどゆめのあるチャレンジか。

ホンダは、F1で唯一、そのことを伝えられるポジションにいるという認識を、コメントを発する方に持ってほしいと思う。

[STINGER]山口正己

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