トヨタの去就
すでに死語になった感のある”ストーブリーグ”。要するに、シーズンオフになる冬の間にストーブに当たりながら膝を突き合わせて話合うからそう呼ばれた。
膝を突き合わせるのは、チームオーナーもしくはそれに準ずる人間と、ドライバーもしくはその代理人だった。いつのまにやら、ストーブリーグという呼び方は昔話になり、時期が早まったことから”プールリーグ”と冗談半分で言われた時期を経て現在にいたっている。
い
つの頃からそうなったかというと、実は1980年代終盤(セナとプロストの時代)にホンダがその流れを変えた、という話はまたの機会に譲るとして、その
昔、ストーブリーグと言われた時代には、「9月」が契約交渉解禁の時期として”紳士協定”があったのだが、なんとなくいまでもその流れは残っている。
現
実的な話をすれば、9月は来年のマシンの具体的デザインを始めておかねばならない時期であり、突き詰めたデザインのためには、ドライバーの”サイズ”も重
要になる。だから、デザインを起こす前にドライバーが決まっていてほしい、という側面もあったりするが、それはともかく、9月を間近に控えたベルギーGP
の会場では、あちこちで移籍話飛び交っている。
◆2010年のシート
ドライバーの移
籍話は、大きいところから決まっていくのが道理だ。要するに大物ドライバーの去就が、他のドライバーに波及する、ということだ。今年の大物とは、本人及び
そのシートであり、現状からすると、まずはF1を引退してラリーに転向すると噂のキミ・ライコネン。つまりフェラーリのシートがひとつ空く。そこに納まる
のは? フェラーリ移籍が噂され、本人も「フェラーリは窮極の夢」とコメントしているフェルナンド・アロンソ、というのがもっぱらの噂だ。
その一方で、現在の話題の焦点のひとつになっているのは、トヨタの去就である。ホンダとBMWが撤退を表明しているから、”次はトヨタ”という観方がしごく普通の感覚で、特に欧州プレスの間では、”トヨタ撤退”がまるで既成事実のように囁かれている。
となると、まず本体のトヨタも気になるが、エンジン供給を受けているウィリアムズが来年どのエンジンを使うかにも話題に上がってくる。
ウィリアムズ・トヨタのドライバーであるニコ・ロズベルグには、マクラーレンにエンジンを供給するメルセデスのノルベルト・ハーグがラブコールを一度ならずとも送っており、マクラーレン移籍が濃厚。となるともう一人の中嶋一貴が気になる。
もしトヨタが撤退することになったら。ウィリアムズのアダム・パー・チーム代表は、中嶋スピードを「素晴らしい」とベルギーGPの金曜日の会見でコメントしたが、トヨタ・エンジンではなくなった時に、その口から別のコメントが聞かれる可能性を否定できない。
能
力的に中嶋一貴が十分にポーダーラインをクリアーしていたとしても、多角的にプロモーションの見地から”中嶋一貴”というドライバーのポテンシャルが速さ
だけでない部分で将来を決められてしまう可能性は小さくない。つまり、中嶋一貴の去就は、トヨタ次第、ということになる。
そういう責任を、ホンダは破棄して、結果として佐藤琢磨の行く先にピリオドを打った。もちろん、ドライバーのポテンシャルの問題、といわれればその通りだが、それをすんなり納得するとしたら、F1というある種の既得権のある村社会を理解していないことになる。
中嶋一貴は十分なポテンシャルを持っているが、”日本人”という分厚い壁がある。”東洋の黄色い猿”には、同じチャンスはないのだ。それえカバーできるのは、現状ではトヨタしかいない。
富士でのF1を放り投げたトヨタが最後の最後で首の皮一枚でプライドを保つには、コンコルド協定にあるとおり、この先数年間の続投が必須だ。やめても違約金を払えばいい、という田舎の発想が三河のトヨタにないことを祈りたい。
会社の景気のいい都合のいい時だけやってきて、調子が悪くなったらサヨウナラをしているうちに、極東の島国が”金を持った黄色い猿”呼ばわりさなる日は、永遠に来ない。
◆敵前逃亡
ホ
ンダが「敵前逃亡」した今、日本のF1を救えるのはトヨタしかなく、もしそれができないなら、ホンダの後続だったトヨタは、ホンダ以上に世界を見ていない
田舎企業の烙印を押されることは間違いない。烙印は日本や中国の習慣だが、イメージとして、ヨーロッパの中でも、”やっぱり日本人は単なる猿だ”とサイン
されるわけだ。トヨタがF1の世界だけでなくグローバル企業と認知されて今後を生きていくために、この数カ月に注目しておきたい。