『スクーデリア一方通行』の筆者である加瀬竜哉/本名加瀬龍哉さんが急逝されました。長い闘病生活を送りながら外には一切知らせず、“いつかガンを克服したことを自慢するんだ”と家族や関係者に語っていたとのことですが、2012年1月24日、音楽プロデュサーとして作業中に倒れ、帰らぬ人となりました。
[STINGER-VILLAGE]では、加瀬さんのなみなみならぬレースへの思いを継承し、より多くの方に加瀬さんの愛したF1を中心とするモーターレーシングを深く知っていただくために、“スクイチ”を永久保存とさせていただきました。
[STINGER-VILLAGE]村長 山口正己
何処より早いシーズン総括
全19戦に及んだ2011年シーズンも遂に閉幕。今回は恒例の”スクイチ・何処より早いシーズン総括”をお届けする。
ブリヂストンに代わって今季から新規参入のピレリ・タイヤと、Fダクトに代わるオーバー・テイク・アイテム”DRS”の採用により、近代F1最多のオーバー・テイク大会となった2011年シーズン。年間19戦の長丁場で史上最年少王者が記録を塗り替え、新たなグランプリ・サーキットが誕生し、日本のサムライはチームのエースとしてしっかりと仕事をしてみせた。
反面、勝利を大命題とする名門が失速し、元世界王者がらしからぬミスを連発、それ故に大味なレース展開も多く、シーズンを通しては少々物足りなかったのも事実である。
◇ベスト・ドライバー:セバスチャン・ヴェッテル
疑う余地は全くない。24歳の若さで年間11勝、ポール・ポジション獲得15回は’92年のナイジェル・マンセルの記録を19年振りに破る大記録、しかも19戦中リタイア1回/4位1回以外は全て表彰台、と言う快挙。チーム・メイトを大幅に引き離す圧倒的な強さでライバル達の戦意を喪失させた。タイトル決定の日本GP3位表彰台で見せた悔しさと、あくまでもポール・ポジション、優勝、そして最速ラップ樹立のハット・トリックを狙うその”完璧主義”は時折チーム内に不安要素を齎すが、その精神力の強さこそが今のヴェッテルのモチヴェーションを支えているのだろう。ともあれ、2年連続ワールド・チャンピオンに相応しい走りを魅せたヴェッテルに死角はない。
また、荒れたレースで見事なタイヤ・マネージメントを行い、3勝を挙げたマクラーレンのジェンソン・バトン、結果は1勝ながら自らの地元バルセロナ、フェラーリの地元モンツァで不利な予選順位から見事にスタートでトップを奪う好走を魅せたフェルナンド・アロンソも見事な仕事をした。
◇ベスト・チーム:レッドブル
年間12勝、18ポール・ポジション獲得、2011年シーズンを退屈にさえしてしまったレッドブル。RB7・ルノーはストップ&ゴーから高速コーナーまで、全てのタイプのサーキットで無類の強さを発揮、ブロウン・ディフューザーは完璧に熟成された。マーク・ウェバー車には度々KERSとスタート・システムに不備が起きていたが、それでも圧倒的な信頼性と強さでダブル・タイトルを獲得。奇しくも、マンセルのポール・ポジション記録を破ったのは、’92年のウィリアムズと同じくエイドリアン・ニューウィーが造り、ルノー・エンジンを搭載したマシンだった。
◇ベスト・レース:第7戦カナダGP
悪天候の中セーフティ・カー先導でレースがスタートし、ヴェッテルが先行。ウェバー、ハミルトンらが自滅する中、13番手スタートの小林可夢偉が着実に順位を上げて行く。雨が強くなった25周目にレースは赤旗中断、天候回復を待って2時間後に再スタート。2位まで上がっていた可夢偉は10周に渡ってフェラーリのマッサと熾烈な争いを繰り広げた。レース後半、シューマッハー、ウェバー、バトンによる激しい2位争いをバトンが制し、遂にはファイナル・ラップでミスしたヴェッテルをも劇的に抜き去り、結局バトンの逆転勝利。健闘の可夢偉は結局7位フィニッシュ。
待たされた分だけ十分に楽しめた、最高のレースだった。
◇ルーキー・オブ・ザ・イヤー:ポール・ディ・レスタ
8戦入賞で27ポイントを獲得し、ドライバーズ・ランキング13位となったディ・レスタ。第9戦イギリスGPでは予選6位を獲得し、第14戦シンガポールでの決勝6位が最高位となった。冷静な判断力とドライビングでチーム・メイトのベテラン、スーティル相手に堂々と戦い、予選では9勝10敗と健闘。ザウバーのペレス(16位)、ウィリアムズのマルドナド(19位)ら同期を完全に凌駕した。チームの来季体制が不透明だが、未来のチャンピオン候補のひとりとして、今季は良い仕事を行った。
◆ワースト・ドライバー:ルイス・ハミルトン
度重なるマッサとの接触、スパでの可夢偉との接触など、一体「何処を見て」走っているのか。多くは書かないが、元世界王者としてはあまりにもお粗末なシーズンだった。速さに溺れて集中力を失うと、いつか確実に大きな事故を招く。来季生まれ変わることを期待する。
ラリー事故で離脱したロベルト・クビサの代役としてルノーに加わったニック・ハイドフェルドも大きく期待を裏切った。途中解雇も当然の成績。ウィリアムズのマルドナド、ヴァージンのダンブロシオのふたりのルーキーも、正直デビュー前の期待を裏切る結果となった。ダンブロシオにいたっては最終戦終了直後に解雇発表となり、短いF1生活にピリオドを打った。
◆ワースト・チーム:ザウバー
開幕戦ではダブル入賞を飾ったかと思いきやリア・ウィングの規定違反で失格、シーズン前半の勢い(それもドライバーの頑張りあって、だが)は、イギリスGP時のブロウン・ディフューザー禁止騒ぎで開発中止を決定したことで完全に裏目に出た。コンストラクターズ6位から見る見るうちにフォースインディアに逆転され、最後はトロロッソと7位を争う羽目に。エース・可夢偉はピレリの評価で全ドライバー中3番目にタイヤ・マネジメントの上手いドライバーとして果敢にポイントを獲得、ルーキーのペレスも可夢偉と予選で堂々と渡り合う活躍を見せながらも、決勝でのタイヤ戦略で明らかにポイントを逃したレースが多過ぎる。BMW無きあとの、これがザウバーの限界か。
2年連続でコンストラクターズ最下位となったヴァージン。これまた2年連続開幕戦がシェイク・ダウン、と言うHRTの後塵を拝し、チーム体制を一新する来季もKERS搭載の予定はなく、一体何が目標なのか疑問である。
◆ワースト・レース:第16戦韓国GP
「冷蔵庫から昨年の残り物が出て来た」「誰も使ってない筈なのにドーナツ・ターンの跡があった」など、初開催となった昨年のレース以来全く使われていなかった韓国インターナショナル・サーキット。2年目の今年、決勝レースは入場者8万人と発表されたが、チーム関係者からは「蚊の数も入れたか、魚も数えたんだろう。しかも2回ずつね」と皮肉を言うほどスタンドはガラガラ。実質的に大赤字なイベントとなり、プロモーターはバーニー・エクレストンに助けを求めている状態である。ヒュンダイのF1参戦の噂も聞かなくなり、この国でのF1開催継続に赤信号が灯っている。
◎キー・パーソン・オブ・ザ・イヤー
・道端ジェシカ
バトンのGFとして度々国際映像に登場するジェシカ嬢。遂にはタグ・ホイヤーの日本人初ブランド・ミューズに就任、東日本大震災後には震災復興の為の救済義援金活動として「TEAM JESSICA」を立ち上げ、F1関係者らに協力を訴えている。ジェンソンの父ジョン・バトンと共に、レースを終えたバトンを明るく迎える姿は微笑ましく、今や中継になくてなならない存在となった。
・小松礼雄
ルノー・チーム、ヴィタリー・ペトロフ担当エンジニアの小松礼雄(あやお)氏。ルノーのピット・ウォールの造り/並びもあるのだろうが、何故か今季やたらと国際映像に登場、フリー走行時はほぼ名物コーナーとなった。ちなみに小松氏は元BAR・ホンダのエンジニアで、’06年からルノーで働いている。
・バーニー・エクレストン
…..アブダビでヴェッテルがリタイアした際、まさかF1ボスのバーニーが直接ピットまで慰めに来るとは思わなかった。来季、ヴェッテル3連覇はもう決まったようなモンである…..。
最後に、悲しい事故でこの世を去ったダン・ウェルドン@インディ・カー、マルコ・シモンチェリ@モトGPのふたりに哀悼の意を表する。もう2度と、悲しい事故が起きませんように。
…..なんだかんだ言いつつ、今季も手に汗握り、一喜一憂/狂喜乱舞したF1世界選手権。来季は更に’07年王者、キミ・ライコネンが帰って来る。総勢6人のワールド・チャンピオンが勢ぞろいする来季も素晴らしいレースが繰り広げられることを期待しつつ、開幕を待つこととしよう。山口村長を始めSTINGER村の皆さん、1年間お疲れ様でした。