F1/モータースポーツ深堀サイト:山口正己責任編集

スクーデリア・一方通行/加瀬竜哉

謹んでご報告申し上げます。
『スクーデリア一方通行』の筆者である加瀬竜哉/本名加瀬龍哉さんが急逝されました。長い闘病生活を送りながら外には一切知らせず、“いつかガンを克服したことを自慢するんだ”と家族や関係者に語っていたとのことですが、2012年1月24日、音楽プロデュサーとして作業中に倒れ、帰らぬ人となりました。

[STINGER-VILLAGE]では、加瀬さんのなみなみならぬレースへの思いを継承し、より多くの方に加瀬さんの愛したF1を中心とするモーターレーシングを深く知っていただくために、“スクイチ”を永久保存とさせていただきました。

[STINGER-VILLAGE]村長 山口正己

2011年12月30日

Wildest Dream〜見果てぬ夢〜 第三章

スクーデリア・一方通行/加瀬竜哉書き下ろしweb小説・特別集中連載
「Wildest Dream〜見果てぬ夢〜」
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第三章・決意

「もうミーティングはウンザリだよ。しかも、このところ良い話だったためしがないんだから」
TSJのチーム・オーナー、林田勝は呆れ顔で、それでも持ち前の大声で笑った。が、こう毎日事件が勃発し続けるのではそれもやむを得ず、相変わらずモナコのホテルの一室は重苦しい空気に包まれていた。
「もう既にメールでもお伝えした通り・今度こそ風間が離脱しました」
大椋が汗を拭いながら話す。
「解ってるさ。それに、どうせ一度ケチがついたんだ。今更雰囲気を改善してどうなるものでもなかっただろう。アイツもそれは解ってる筈だし、さすがにもう戻って来ないと思うぞ」
桜田の言い分は完全に正論であり、現場にいた鈴石も大椋も大きく頷いた。ただひとり、風間と直接やり合った星田だけは、じっと一点を見つめて押し黙り、やがてゆっくりと口を開いた。
「皆知っての通り、『風間裕人』と言う名前、レーサー・ネームには、特別な想いがある」
全員が黙った。
「…伝説のレーサー、風戸裕だ。1974年のあの日、おそらくその後の日本のレース界を背負って立ったであろう未来のスターは、あまりにも若くして逝った」
「あれで富士の30度バンクは閉鎖されたんですもんね…」
蓄積されたデータを掘り起こすように、大椋が呟いた。

風戸裕。
若干18歳で日本のレース界に颯爽とデビューし、多くの勝利と共にその美貌もが語り継がれる伝説のレーサー。将来を有望視されながらも、1974年6月2日、富士スピードウェイでのGCレース中の事故により、25歳の短過ぎる生涯を終えた。一世を風靡したスーパー・カー漫画「サーキットの狼」の主人公、「風吹裕矢」のモデルとしても知られている。

今ここにいる殆どの人間にとって、風戸は特別だった。誰もがその死を悲しみ、嘆いたのである。
「俺は風戸さんが死んだ年にフォーミュラ・カー・デビューした。どれほど憧れの存在だったか、は解ると思う。そして、この企画が来て『レーサー・ネーム』を付けると言われた時、俺は迷わずあの『ボーイ』の名前に風戸さんの字を入れようと思ったんだ」
皆解っていても、敢えて静かに星田の話に聞き入ることにした。
「…良い眼をしていたよ。最初はね。コイツなら一発やらかしてくれるんじゃねえか、と思わせる何かがあった気がしたんだ」
「皆そんなもんさ。で、実際にはそんな連中の中の、ほんの一握りだ」
林田が大声で制する。
「例えば可夢偉だ。奴はあの若さで、ちゃんと日本のF1を背負って立ってやがる。『自分がいなくなったら日本のF1が終る』って。そんなこと本気で言える日本人が今まで、チャンピオンになった企業や自動車メーカーの中にすらいたかい?。皆無責任に、自分達の都合でやったりやめたり、だ。フェラーリやマクラーレンはやめねえだろう?、それと同じことじゃねえか」
それはなんとも羨ましく、そして究極な話だった。
「…そんな夢を、一瞬でもあのボーイに重ねたことを今は恥ずかしく思う。皆、すまなかった」
星田は深々と頭を下げた。
「奴はサムライににゃなれなかった。それだけのことさ」
林田は立ち上がって星田の肩を叩き、皆の方を向いた。
「こんな、今時誰も知らないようなノスタルジーに浸ってても仕方がねえ。ボーイのことはとっとと忘れて、眼の前のレースの話をしようじゃねえか。で、やれんのか?」
「それが…」
大椋が伏し目がちに言葉を濁す。
「…スポンサーか」
感の良い桜田が即返し、鈴石が首のあたりを掻きながら立ち上がった。
「ま、風間を使わないのなら『コレっきりだ』と。明日から一切の投資もサポートも行わない、宿泊費も輸送費も知るもんか、と言う姿勢です」
「解った。んじゃ、とりあえず明日は皆で張り切ってボディのスポンサー・ステッカー剥がすか!」
桜田は無理のない、本当の笑顔を見せて言った。対照的に、星田は項垂れたままだった。
「皆…すまない」
「何言ってんの。星田さんのせいじゃないよ。サムライになれなかったボーイが悪いのさ」
「そう言うこと。じゃ、サムライの皆さんは明朝9時から、皆でボディのステッカー剥がし!。俺はリア・ウィングをやるわ」
「あ、一番デカイとこ取られたあ…」
たわいもないやりとりは、責任を感じ落ち込む星田に向けたものだった。
「ヘイ、ところで皆、僕のこと忘れてない?」
きついドイツ訛りを隠さず、TSJのエース・ドライバーであるジョナサンがまくしたて始めた。通訳が何処まで訳したのか、若干他のメンバーとはエキサイトするポイントが違うようだった。
「忘れてなんかないさ。そう言うわけで最後のモナコGP、ウチのチームはジョナサンひとりだけのエントリーになる。マシンはトルコから大きく変わってはいないが、知っての通りのドライバーズ・サーキット、きっと我々にもチャンスが…」
宥めるように説明を始めた鈴石を制してジョナサンが笑う。
「僕は2005年にここで予選3列目から3位表彰台に立っている。多分、ここに住んでたアグーロの次にこの街のことは良く知ってるつもりだ。任せてくれよ!」
「何って?」
ジョナサンがまくしたてたので、大椋が笑って間に入る。
「『任せろ』ですって!」
「頼りにしてるよ。そう言えば、お前いつだか表彰台に乗ったっけ?」
大椋がジョナサンにウィンクしながら続ける。
「その話を今してたんですよ」
「何だ、自慢話かよ!。ま、予報じゃ天気も下り坂だし、それこそウェット・レースにでもなれば何が起こるか解らない。そのためにも、なんとかジョナサンには予選を通過して貰わなければならん」
下を向いていた星田が顔を上げた。
「よし…ここからは作戦会議だ」
「おし、いっちょやったるで!」
…ひとつのネガティヴが生み出すポジティヴは、例え実態に乏しくも、極めてパワフルなものだ。

水曜日。
F1モナコGPはモンテカルロの市街地を閉鎖して行われる公道レースが故に、一般的なクローズド・サーキットでの開催とは大きく違う点がある。多くのセレブが集まるモナコならではの決まり事として、本来金曜フリー走行、土曜フリー走行と予選、日曜決勝となるところを、木曜フリー走行、金曜は公道閉鎖を解いて走行は行われず、土曜から元のスケジュールに戻
る。つまり、金曜は来賓客をもてなすパーティー・デイとなり、チームは作業することが出来ないのである。したがって、通常チームが作業する木曜日のスケジュールはそのまま水曜日に前倒しとなる。
TSJは他のチームと同様、何事もなかったかのようにマシンを組み立て始める。ただひとつ違っていたのは、そのマシンからはメイン・スポンサーである電脳のロゴが一切除去され、殆どノー・スポンサーの純白のカラーリングとなっていたことである。結果的に彼らはこの日もメディアの注目を浴びることとなった。
明日はいよいよフリー走行開始。チームは表彰台経験のあるエース・ドライバー、ジョナサンに全てを託し、最後のグランプリに望む。

次回に続く。

※この物語はフィクションです。


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