『スクーデリア一方通行』の筆者である加瀬竜哉/本名加瀬龍哉さんが急逝されました。長い闘病生活を送りながら外には一切知らせず、“いつかガンを克服したことを自慢するんだ”と家族や関係者に語っていたとのことですが、2012年1月24日、音楽プロデュサーとして作業中に倒れ、帰らぬ人となりました。
[STINGER-VILLAGE]では、加瀬さんのなみなみならぬレースへの思いを継承し、より多くの方に加瀬さんの愛したF1を中心とするモーターレーシングを深く知っていただくために、“スクイチ”を永久保存とさせていただきました。
[STINGER-VILLAGE]村長 山口正己
イス穫りゲーム白熱中
第15戦日本GP直前、遂に来シーズンのシート争いの台風の目だったフェルナンド・アロンソ(ルノー)の’10年フェラーリ移籍が発表された。確かに、既に誰もが知っていた/解っていた既成事実ではあったが、これによりフェラーリのシートを喪失することとなったキミ・ライコネンの去就は不透明なままである。特にフェリペ・マッサの不慮の事故を境に、落ち着かないセカンド・ドライバーの代役シートを横目にチームを牽引する活躍を見せて来たライコネンだけに、このタイミングでの発表は今後のライコネンのキャリアに大きく影響することは必至である。
そしてこのアロンソのフェラーリ入り発表は同時にアロンソのルノー離脱をも意味し、日本GP後に今度はBMWの撤退でチームの去就がハッキリしないBMWザウバーからロベルト・クビサがルノーへ移籍することが発表された。同時にこれは、ホンダ/BMWに続いてF1撤退が噂されていたルノーが少なくとも’10年の選手権には参戦することをも意味する。ただし、最終的に親会社のルノーが「辞める」と言い出せばそれまでなのは何処のメーカーも同じだが、不透明だった将来にひとつだけ確実性のある要素が見られたこともまた事実である。
’09年シーズンも残り2戦。選手権もいよいよ大詰めとなると同時に、各チーム/ドライバーによるシート争いも徐々に目に見える形となって来る。このアロンソ+フェラーリ、クビサ+ルノーを基準に、そろそろ’10年のグリッドの面々予想も現実的になって来た。今回は現状のあらゆる情報を知った上で、スクイチなりの’10年シート事情を確認して行くことにする。
まず、フェラーリはアロンソ加入発表によってふたつのシートが決定した。チーム・メイトは現在ハンガリーGPでの事故のリハビリ中であるマッサである。また時期を同じくしてエンジン/エレクトロニクス部門のディレクターに元フェラーリで今年トヨタを離脱したルカ・マルモリーニが就任したことを発表。現在マッサの代理を務めているジャンカルロ・フィジケラがリザーブ・ドライバーとなることも含め、現状何処よりも早く来季のチーム体制を確定/発表していることになる。これは巻き返しを図る’10年シーズンに向けて好材料となる筈であり、ライバル・チームよりも早く翌年の体制を決定するのは極めて重要な要素となる。特に今季、マッサの代役となったルカ・バドエル/フィジケラがマシンの特性を掴むのに苦労したことを考えれば、少しでも早く’10年型マシンの開発への着手とチーム体制の強化を計りたいところである。
既にセバスチャン・ヴェッテルが’11年まで、マーク・ウェバーが’10年まで契約を更新し、レッド・ブルも来季のシートが決まっているチームのひとつである。が、ここへ来てフェラーリを弾き出されたライコネンを巡り、この安泰だった筈のシートが動く可能性が出て来た。’10年の残留が決まっているウェバーが放出され、そこにライコネンが座りセバスチャン・ヴェッテルとタッグを組む、というものである。ライコネン自身はシーズン中から例のクールでゴーイング・マイ・ウェイな振る舞いを貫き、もちろん揶揄されることもありながらそれでも黙って結果を出して来た。第12戦ベルギーはフェラーリの今季唯一の勝利であり、’07年の逆転チャンピオン獲得劇はフェラーリ1年目にしての偉業である。加えて本人は、恐らくかつての歴代フェラーリ・ドライバーの中で最もフェラーリを愛さない、または愛しているとは思えない振る舞いを見せて来たドライバーでもある。ただそれはあくまでもライコネンのキャラクターであり、ライコネンがマッサの事故のあと見舞わなかった、との報道を受けたマッサ自身が「彼はそういう人。別に気にならない」と発言していることからも、周囲はライコネンのキャラクターを受け入れていたと思われる。更にシーズン中にも関わらず将来のラリー・ドライバーへの転身を匂わせ、勢力図が一気に変更となった’09年にはF1に対する興味を失ったかにさえ見えた。そのライコネンがマッサの事故後完全にチームを背負って立ち、そしてアロンソのフェラーリ加入/自身の離脱発表を受けて出したコメントが「フェラーリを去るのは寂しい」だったのは少々驚きだった。同時に、即座にF1引退/ラリー転身、または噂されていた古巣マクラーレンへの移籍を発表するかと思いきや「レースをやるかどうかも含めて来年のことは未定」更に「決断は急がない」と、公然の秘密だったフェラーリのアロンソ獲得劇も、ライコネン自身にはまるで突然の出来事のように受け止められる。「仮にF1に残るとしたら、タイトルを争えるチーム以外に興味はない。10位を争ってレースをするくらいならF1を辞める」とあくまでもトップ・チームへの移籍がF1残留の条件とする。そうなれば噂通り、不振のヘイキ・コヴァライネンに変えて古巣・マクラーレンへと考えるのが常だがライコネンのマネージャー、スティーヴ・ロバートソンは「既に空席のないチームとの交渉も行っている」と、レッド・ブルとの交渉を認める発言を行った。更にフェラーリ離脱が決まった時点でルノーとトヨタからのオファーを断っており、F1に残るのならマクラーレンかレッド・ブル、という選択肢のようである。
既にレッド・ブルと来季の契約を更新し、今季念願の初優勝を遂げたウェバーにはひとつネガティヴな要素が存在する。ウェバーは元々フラビオ・ブリアトーレ・マネジメントによりF1に参戦するひとりである。そのブリアトーレがF1を追放されたあとも「彼は私にとって重要な人物であり、今後も他のマネージメントと契約するつもりはない」と発言。これにレッド・ブルが不満を示し、ウェバーをレッド・ブルのセカンド・チームであるトロ・ロッソへと”降格”させるという説がある。仮にレッド・ブルがライコネンを獲得するとしたら、ヴェッテルがいる以上これしか手がないことも事実である。
マクラーレンは長期契約を結び、今季も不振の序盤からチームを牽引し、後半2勝を齎した昨年の王者、ルイス・ハミルトンのシートは安泰である。しかしチーム・メイトのコヴァライネンは全く良い所がなく、今季ここまで勝利はおろか表彰台すらない。元々’08年にアロンソのマクラーレン離脱でルノーからスワップする形でマクラーレンに加入したコヴァライネンだったが、’08年こそ初ポール・ポジション/初勝利を含む活躍を魅せたものの今季は完全に中団に埋もれ、早くから今シーズン限りでの解雇が噂されて来た。ライコネンのフェラーリ離脱が現実味を帯びて来ると同時にマクラーレン復帰が取り沙汰され、コヴァライネンの離脱は必至、との見方が強かった。しかしライコネン自身が来季の去就を濁し始めると、マクラーレンのチーム・ボスであるマーティン・ウィトマーシュは「我々は決定を急いでいないし、キミを待っているわけでもない。ヘイキも重要なチーム・メンバーのひとりだ」と、この問題に早期の返答を行う意思のないことを強調。また、ハミルトン自身が現在のチーム・メイトに満足しているとの状況も、ライコネンのマクラーレン復帰が簡単なものではないことを示唆している。
そのコヴァライネンの移籍先として噂されているのが古巣・ルノーである。ルノーはトヨタと共に’09年いっぱいでのF1撤退が噂されていたチームであり、昨年の第15戦シンガポールGPでのクラッシュ・ゲート事件が明るみに出たことで撤退必至と見られていたにも関わらず、’10年のロベルト・クビサ獲得を発表。コンコルド協定に倣い、最低でも’12年までのF1継続を決めたと見られる。しかしクラッシュ・ゲート事件によりチーム・ボスとエンジニアリング・ディレクターを失ったルノーに好材料は少ない。同時に、シーズン途中で解雇されたネルソン・ピケJrに代わって起用したロマン・グロージャンが全く成績を残せていないのに加え、グロージャンをピケJrのシートに座らせた張本人であるフラビオ・ブリアトーレ自身が既にF1を追放されてしまっている。これまでルノーF1チームのシートは、完全にドライバー・マネジメントも行っていたブリアトーレの手中にあったが、この一件でブリアトーレはF1と無関係となり、不振のグロージャンがルノーに残留出来る理由もなくなったことになる。それどころか、グロージャンには既に第16戦ブラジルGP以降、今年のGP”でランキング3位となったルーカス・ディ・グラッシとの交代説さえ囁かれている。これによってクビサのチーム・メイトにはコヴァライネン、クビサ同様BMWザウバーの将来に不安を持つニック・ハイドフェルド、フォース・インディアのエイドリアン・スーティル、更にトヨタのティモ・グロックらが噂されている。
アロンソ以外に、今年のシート争いの台風の目となるドライバーがもうひとりいる。デビュー4年目となるウィリアムズのニコ・ロズベルグである。
’82年の世界王者ケケ・ロズベルグを父に持つニコは今季ここまで15戦中11戦で入賞、未だノー・ポイントのチーム・メイト、中嶋一貴に大きく水を開けている。資金難と非力なエンジンで健闘するニコは常にトップ・チームから目を付けられており、現在噂されているのはマクラーレンとブラウンGPという、申し分のないトップ・チームへの移籍である。どちらもメルセデス・ベンツ搭載のチームであることも決して偶然ではなく、どうやらメルセデスはワークス扱いでのドイツ人ドライバー起用を目論んでいるようである(父ケケはフィンランド人だがニコはドイツ国籍)。これが実現すれば、ニコは’55年のカール・クリング以来のメルセデス・ワークス・ドイツ人ドライバー、という栄誉となる。ニコ本人もマクラーレン、ブラウンGPとの交渉を認めており、残留を望むウィリアムズを交えて三つ巴の争奪戦の渦中にいる。しかしウィリアムズはニコ離脱に備え、既にテスト・ドライバーで’09年GP2王者のニコ・ヒュルケンベルグのデビューを目論んでいる。
またメルセデスにはマクラーレンに代えて新たにブラウンGPをワークス・チームとする可能性があり、ここまで初年度から選手権をリードするという活躍を見せながら大口スポンサーの話が全く聞かれないブラウンGPが、来季シルバーに塗られているだろうという声もある。そうなった場合マクラーレンは撤退を発表しているBMWのエンジン部門を買い取り、自社ワークスとして参戦するという説がある。いずれにしてもアロンソの去就が決まった以上、次の鍵を握るのはライコネンとロズベルグのふたりであることは確かである。
さてそのブラウンGP。ホンダの撤退→マネジメント・バイアウトで開幕ギリギリに誕生した新チームでありながらも選手権をリードし、シーズン後半不振とは言え、あと0.5ポイントでコンストラクターズ・タイトル決定というF1史に残る活躍を見せるチームである。ポイント・リーダーのジェンソン・バトンの今季の年棒は僅か500万ドル(約4億5千万円)、しかもホテル代や旅費は自分持ちである。これはホンダ撤退によるチームのマネジメント・バイアウトのための援助であり、当然ながらタイトルを獲得すればその金額は跳ね上がることとなる。しかしシーズン中盤以降のパッとしない成績により、バトンとチームとの来季の交渉は難航していることをバトンのマネージャーであるリチャード・ゴダードが認めている。チーム・メイトのルーベンス・バリチェロはもっと深刻で、ロズベルグがウィリアムズから移籍して来るとなれば弾き出されるのは間違いなく、今季バトンとタイトルを争いながらも、出走286戦のこのベテランがシートを失う可能性はある。本人も「来季もF1に留まりたい」としながらも、確たるものがないことも認める。ウィリアムズがヒュルケンベルグをデビューさせた場合「ひとりはベテランを」との希望があることからバリチェロかハイドフェルドの名前が挙がっているが、ニコの行き先がマクラーレンだった場合は両者残留が濃厚である。
こうした活発な動きの中で、現在最も先行きが不透明なのがトヨタである。多くの関係者が今季限りでのF1撤退を予想する中、日本GPを前に参戦継続を豪語したトヨタだが、ヤルノ・トゥルーリ/ティモ・グロック共に来季の契約オプションを行使しないことが明らかになった。つまり、ドライバーの総入れ替えである。ここにはもちろん日本チームとして、現在トヨタ・エンジンを搭載するウィリアムズで不振のシーズンを送り、解雇が決定的な中嶋一貴、そして日本GPフリー走行で病欠のグロックの代役を務めたサード・ドライバーの小林可夢偉が座ることも考えられるが、その反面、未勝利が続く体制を強化したいトヨタがライコネンやクビサの獲得を狙ったのも理解出来る。しかし、少なくとも1.800万ユーロ(約28億円)とも言われるライコネンの年棒を受け入れるとは思えず、どの道ふたりとも既に来季のチームを決定した現在、これだけ好調な現状のトゥルーリ/グロックのコンビを継続することも選択肢として良い筈である。しかしながらトゥルーリは11月にNASCARのテストに参加することを認めており(しかも皮肉なことに、’02年にトヨタを解雇されたミカ・サロと一緒のテスト参加)、チームの母国GP初表彰台という活躍を見せた日本GPもレース終了直後には日本を飛び立ってしまい、参戦継続を名言したポジティヴな状況とは真逆のチーム内不和が見て取れる。
フォース・インディア、トロ・ロッソの両チームには現状ドライバー交代の絶対的な要素はない。フォース・インディアにはスーティルのルノー移籍の噂があるが、チーム代表のビジェイ・マルヤとしては手放す理由のないドライバー布陣である。むしろ若手スーティルのチーム・メイトとしてベテランのフィジケラを雇っていたのが、フィジケラのフェラーリ移籍、そしてスーティルの成長、まずまずのF1復帰を見せたヴィタントニオ・リウッツィという現行のライン・アップを継続させることが重要である。トロ・ロッソは日本GPで速さを見せたセバスチャン・ブエミ/ハイメ・アルグエルスアリの若きコンビの成長に期待出来そうであり、ライコネンのレッド・ブル加入によりウェバーが入って来た場合、アルグエルスアリがサード・ドライバーに回る可能性はある。いずれのチームもルノー、レッド・ブルという格上チームの判断待ちとなるのが現状である。
さて、ここで忘れてはいけないのが、’10年から新たに3つのチームがF1に参戦して来る、という事実である。
既にFIAに承認されている3つの新チームはカンポス、マノー、そしてUSF1。ただし、6月12日にこのエントリーが承認されたあと、7月にBMWが’09年いっぱいでのF1からの撤退を発表、チームが2012年までの参戦を確約するコンコルド協定に署名しなかったことでFIAは新たにもうひとつの新規チーム参戦枠を設けた。そこに決まったのがロータスである。マレーシアの富豪、トニー・フェルナンデス率いる新生ロータスはマイク・ガスコインをテクニカル・ディレクターに迎え、他の新チーム同様コスワース製エンジンを搭載して参戦する。ところが、親会社のBMWの撤退決定を受けても尚、チーム・ボスであるマリオ・タイセンを含めザウバー・チームは’10年以降の参戦継続を模索し、スイスのクァドバク・インベストメンツへ8,0000万ユーロ(約107億円)で売却されることが決定。FIAはチームへの救済処置として本来13チームがリミットだった’10年のエントリー・リストに急遽”補欠”制度を導入し、クァドバクのチームを14番目として「参戦不可能となったチームが出た際には繰り上げとする」旨の異例処置を行った。折しも、新チーム3つの内、未だデザイン・オフィスもファクトリーも持たないUSF1にはパドックで「本当に参戦出来るのか」という噂が出始めた時期でもあり、ルノーやトヨタの撤退の噂も含め、来季13チームが揃わない可能性を危惧した処置と言える。
では、その3つの新チームの最新情報を見てみよう。
カンポス・レーシングはスペインの元F1ドライバー、エイドリアン・カンポスが’98年に起こしたチームで、ワールド・シリーズ・バイ・ニッサンではマルク・ジェネやフェルナンド・アロンソを輩出、GP2では’08年にジョルジョ・パンターノを擁してタイトルを獲得している。来季のF1進出に当たってはダッラーラ製のシャシーを使用し、ドライバーにはスペイン人でありマクラーレンのリザーブ・ドライバーであるペドロ・デ・ラ・ロサ、’08年GP2選手権2位で故・アイルトン・セナの甥であるブルーノ・セナらが候補に挙がっている。
マノーはユーロF3、フォーミュラ・ルノーなどで成功したイギリスのレーシング・コンストラクターで、ルイス・ハミルトン、キミ・ライコネン、中嶋一貴らを輩出した実績を持つ。現在は元シムテック・チームのニック・ワース率いるデザイン・チームが既にコスワース搭載の’10年型F1マシンのデザインに着手しており、今季ブラウンGPと”スポット契約”を続けているヴァージンをメイン・スポンサーに、A1GP王者のアダム・キャロルをドライバーに起用して参戦することが濃厚とされる。
USF1はナイジェル・マンセルの元マネージャーであるピーター・ウィンザーと、元リジェのテクニカル・ディレクター、ケン・アンダーソン率いるアメリカン・チームとして注目を浴びている。ドライバーには当初アメリカ人を、との意向でインディで活躍中の女性ドライバー、ダニカ・パトリックや元トロ・ロッソのスコット・スピードなどが噂に挙ったが、現状’10年のドライバーにはスーパー・アグリの消滅でシートを失ったアンソニー・デビッドソン、マクラーレンのテスト・ドライバーのゲイリー・パフェットらが候補として挙っている。しかしチーム発足直後に接触を試みたフランク・モンタニーによれば「彼らは全チームのサード・ドライバーと話をしているよ」とのことで。最近ではWRC王者のセバスチャン・ローブすら候補に上がり、現状でF1参戦に必要なスーパー・ライセンスを持たないアメリカ人ドライバーの起用はなさそうな気配ではある。
ただし、これらの新チームはいずれも当初FIAが導入を目論んだバジェット・キャップ案に基づき、各チームの年間予算を3,000万ポンド(約42億円)と定めるというルール変更を前提とした参戦枠であり、最終的にFOTAとの合意の時点でこの案が「数年以内に’90年代レベルまで引き下げることを目標とする」という曖昧なものとなっており、多額の予算を持たない新チームにとっては寝耳に水である。当然、いずれかのチームが参戦を見送る可能性もあり、そうなった場合はクァドバク/ザウバーが正式承認される、ということになる。
…..こうした各チームの現状を見た場合、まず常識的に考えられるのがF1経験の豊富なベテラン・ドライバーと、チームの母国やスポンサーなどに深い縁のある新人ドライバーの起用である。カンポスがスペイン人を、USF1がアメリカ人を模索するのは当然であり、例え初年度から上位が狙える状況でないにしても、現在浪人中やリザーブ・ドライバーとして出番を待つだけのベテラン達にとっては魅力的な話である。また、現在’10年のシート確約を持たないドライバーにとってもレギュラーとして即戦力となるチャンスはあり、前述の解雇が決定的なグロージャンや一貴あたりにもチャンスはなくはない。ただし、彼らの”武器”であるフランスもトヨタもそこにはなく、’09年マシンを知っている、というメリットしか存在しないのもまた事実である。少なくともF1の現場復帰を狙っているメンツの中に、’97年世界王者のジャック・ヴィルヌーヴ、スーパー・アグリ消滅で浪人中の佐藤琢磨、BMWザウバーのサード・ドライバーのクリスチャン・クリエン、更にはクラッシュ・ゲート事件の渦中の人、ネルソン・ピケJrらも含まれている。
そして’10年シーズンを迎えるにあたり、もうひとつの大きな不確定要素が存在する。それはいくつかのチームが来季の搭載エンジンを変更する、という事実である。しかしながら、現在その実態は明らかになっていない。少なくともウィリアムズはトヨタと決別し、恐らくルノー搭載車となるだろう。ウィリアムズ・ルノーという組み合わせに’90年代の全盛期を思い起こす人も多い筈である。更に前述の通りマクラーレンがBMWを買収する説、更に今季度重なるエンジン・トラブルに泣かされたレッド・ブルがやはりルノーと決別するのではないかと噂されており、供給先を失うトヨタも交えて今後どうなるかは不透明なままである。
…..期待された母国GPでの入賞も叶わず、来季ウィリアムズがトヨタ・エンジンを搭載しないとなれば中嶋一貴の残留はもはや風前の灯である。いやむしろ、3年振りの鈴鹿開催で明らかになった日本人のニッポン・ナショナリズム離れは、一貴にとって追い風とはなりそうもない。残り2戦、来季の契約を少しでも有利にするため、将来が不確定なドライバー達がどんなレースを魅せてくれるか。
「フェラーリでF1のキャリアを終えたいね」’09年/フェルナンド・アロンソ