オリジナル リリース-スクーデリア・トロ・ロッソ【ブラジルGP(木)】
とにかく、それぞれが知恵を絞って自分たちの腕を振るうしかない。トラック・ドライバーは飛行機の破片からモーターホームらしきものを組み立てる。その際、地面が平じゃないとか、コーヒーが飲めないとか、いろいろ不満を漏らすことだろう。これに応えて、ケータリング担当の女性スタッフは、紅茶の代用になるようなものを探してくるわけだ。報道関係者には、それよりも少し質の落ちるものが振る舞われる。
チームの首脳はメカニックに日没の1時間前までに飛行機を修理しろと急かし、その状況はいくらかパルク・フェルメが閉まる前のドタバタ騒ぎに似ている。そんなことをしていると、FIAの担当者がやってきて、壊れた飛行機のエンジンを交換したという理由から、5時間作業を中断するよう命じる。
広報担当者は不時着の原因についてもっともらしい理由をでっちあげ、リリースには、ちゃんとタイヤがバーストする前にエンジンが壊れていたかもしれないとうい可能性を匂わせておく。
ついにチームの代表が動きだし、地元の人間を雇おうとするわけだが、フェイスペインティングをほどこし、尻にブルーの絵の具をつけた姿を、他のスタッフはいつもとそんなに違わない、というような冷やかな目で眺めている。
木の実や野生の果物で飢えをしのがなければならないので、大食いのメカニックは心配顔だが、カーボン・パーツの担当者は、オートクレーブを使ってなんとかできないものかと知恵を絞っている。
テクニカル・ディレクターはジャングルを25kmも歩けば街にたどりつくと計算するが、兵站を担当するスタッフは、それよりも7日間かけて未開地を迂回した方が効率的だという意見を述べる。作戦を担当するチーフもそれに同意するが、近道をつけ加えるよう提案し、その通りに進むには、ワニの居る川を渡って行かなければならない。
ドライバーは食べ物を求めて川に飛び込み、3人目のドライバーがいちばん早く泳ぐことから、レギュラーのふたりは、自分たちの方が重い状態で泳いでいたのだと主張する。
モーターホームを組み立て終えたトラック・ドライバーは、いつもの習慣で周囲の木を掃除しはじめる。その作業が終ったころ、作戦を立案する担当者は、すべての木を95㎝動かせと指示する。
最も大食いのメカニックは姿を消し、同僚たちは彼が生前、どんなに良い人間だったかを、口々に語り始める。貧弱な施設や移動の困難さ、夜の楽しみがないことなどに不満を述べながら、それでも全員が、いつもの仕事よりはこの方がましだと考え、翌年の身の振り方を真剣に相談し始めることになるだろう。