トヨタの敗因と日本のモーターレーシング民度・その1ポルシェvsアウディ
2014年チャンピオン・チームは、ルマンにまったく歯が立たなかった。
83回目を迎えたルマン24時間レースは、壮絶な高速バトルの末に、ポルシェが17年ぶり17度目の勝利を飾った。1-2編隊の文句なしの勝利だった。
宿敵アウディは、最後まで食い下がったが届かなかった。しかし、2014年WECチャンピオンのトヨタTS040 HYBRIDは、エースカーがクラッシュする不運もあったとはいえ、もう1台も8周遅れの惨憺たる結果だった。
トヨタはなぜ敗戦の苦渋をなめたのか。テクノロジーの闘いに見えながら、ルマン24時間という伝統のレースは、極東の島国日本が置かれたクルマとモーターレーシングの実情を伝えるレースになった。
([STINGER]山口正己)
◆トヨタは負けるべくして負けた
83回目のルマン24時間が終わった。
今年のレースは、2015WEC第3戦として行なわれ、二十一世紀になって連覇を続けているアウディ、17勝の最多勝利を誇り、去年本格復帰を果たしたルマンのレジェンドポルシェ、そして2014年WECチャンピオンのトヨタ、さらに、FFという斬新な思考回路のマシンで挑んだニッサンの対決が話題を呼んでいた。
この4メーカーから、ニッサンGT-R LM Nismoは、本番を前に勝負を争うグループから外れていた。FFという常識を覆す斬新な設計思想は話題にはなっても、デビューが遅れ、ぶっつけ本番で挑むレースで好成績を望むべくもなかったからだ。ルマンはそんなに甘くない。
優勝は、アウディR18 e-toron quattro、ポルシェ919Hybrid、トヨタTS040 HYBRIDの3車で争われると思われていた。
ルマンは2015年世界耐久選手権、通称WEC第3戦だが、イギリスのシルバーストンで行なわれた開幕戦から、8メガジュールという許容範囲で最大のモーター出力を選択したポルシェ919Hybridのストレートスピードの凄まじさが話題になっていた。ルマン24時間の舞台であるサルテ・サーキットは、長いストレートを持ち、そこでタイムを稼ぐことが重要との考え方があり、ポルシェの技術陣は、テーマをそこに絞り込んでマシンの設計と開発を進めていた。
水曜日にフリー走行が始まると、ポルシェの狙いが的中していることがすぐに判明した。ポルシェ919Hybridは、去年、中嶋一貴が日本人として初めて獲得したポールポジョンのタイムを大きく更新してみせた。去年より、5秒も速くなっていたのだ。
ただし、”ルマンは単に速ければいいのではない”、というのが大方の見方だった。つまり、あんなに速いポルシェが24時間持つはずがない、という、しごく当然の見識から出た反応である。
しかし、レースが始まると、時間の経過とともに、その考えは改めざるを得ないムードになっていった。ポルシェ919 HYBRIDのスピードは、本番になっても揺るがず、ほぼ予選水準のタイムでレースが進んだ。
そして驚いたことに、アウディR18 e-toron quattroもポルシェ919 HYBRIDの予選タイムに匹敵するスピードを見せ、”予選ペース”で、最後までスーパースピードバトルが続くことになった。
トヨタTS040 HYBRIDは、ドイツの2社のマシンに着いていくことすらできなかった。
なぜ、トヨタTS040 HYBRID非力だったのか、それは、日本が、クルマに対する認識が特殊な国であることが起因していた。83回目を迎えた2015年ルマン24時間レースは、そんなことを思い起こさせるレースだったたのだ。
(その2につづく)
photo by TOYOTA RACING