トヨタの敗因と日本のモーターレーシング民度・その2 開発の死角
昨年型を正常進化させたトヨタTS040 HYBRID。今年も2台の参戦だった。
(その1からつづく)
トヨタTS040 HYBRIDは、トヨタの東富士研究所と、ドイツのケルンに本拠地を置くF1の拠点だったTMG(トヨタ・モータースポーツ有限会社)が設計と開発を担当し、レース運営TMGが行なっている。
今年のルマン24時間が始まる前に、昨年まで、F1からWECを戦うトヨタレーシングの代表を務め、この3月までTMGの社長だった木下美明さんが、ルマンの主催者であるACOに表彰された。ハイブリッド車をルマンに持ち込み、現在の基礎を創生した功績が認められたからだ。
そもそもプリウスでハイブリッドに先鞭をつけ、村田久武ハイブリッド・システム責任者が率先して開発を続けていたハイブリッド技術で、トヨタは世界をリードしているはずだった。しかし、今年のルマンでそのトヨタは、いいところがなく終わった。
◆見込み違い
2015年ルマン24時間でポルシェ919HybridとアウディR18 e-toron quattroの闘いに付いていけなかった理由として、最初の過ちは、2015年シーズンを想定する段階で、ライバルのポテンシャルレベルを読み違えたことである。トヨタの関係者の一人は、テストデーを走った後に、「去年のクルマを5秒速くして挑んだ。それでいい線行くかと思ったら、相手は10秒以上速くなっていた」と肩をすくめた。
モーターレーシングは、どんなに素晴らしいクルマを作っても、相手の力を読めなければ勝利はおぼつかない。「高く険しい山の頂きを目指し、登頂に成功したら、すでに先に到着している人がいた」。これではレースには勝てない。誰かがどう登頂しようとしているのかを見極めて、あらゆる可能性を想定してその先回りをする。これ勝利の鉄則。まずは相手の力を正確に認識いなければならない。
だからといって、相手の力を過大評価すると、今度は耐久信頼性が犠牲になる。相手より速くてかつ壊れない水準の見切りは、非常に重要なのだが、2015ポルシェ919Hybridのポテンシャルを、トヨタは読みきれず、それは結果としてトヨタの死角になった。そうなったのは何故か?
(その3に続く)
photo by TOYOTA RACING