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トヨタの敗因と日本のモーターレーシング民度・その3 格段にスピードアップしていたポルシェとアウディ

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24時間耐久とは思えないペースを見せつけたポルシェ919Hybrid。ブランドイメージを見据えた3色の”3台体制”でスタートを待っていた。

その2からつづく)


そもそも、ポルシェ919HybridとアウディR18 e-toron quattroは、呼称は同じでも完璧な2015年仕様のニューマシンだったが、トヨタTS040 HYBRIDは、去年のマシンの改良型だったという。

もちろん、それでもトヨタTS040 HYBRIDは、前年型からは質実とも進化していた。ところが、水曜日に1回、木曜日に2回行なわれた予選でトヨタは、去年、自身が記録したポールポジョンのタイムより2秒ほど遅い3分23秒台しか記録できなかった。ポルシェ919 HYBRIDが3分16秒台、アウディR18 e-toron quattro、3分19秒台を記録していた。

マシンポテンシャルは明らかに向上したはずのトヨタTS040 HYBRIDが、去年のポールタイムを下回る予選を見て、予選を度外視してレーストリムに注力し、24時間後のゴールを見据え方戦い方をしていると解釈してレースには期待ができた。だが、レースが始まってすぐに、それが間違いであることが見えてきた。

ポルシェ919Hybridも、アウディR18 e-toron quattroも、予選さながらのペースで周回を重ねたからだ。アウディは、予選以上のラップタイムを何度も記録した。路面コンディションの変化があったとはいえ、レーストリムを考えた持久戦は、今年のルマンでは通用しなかった、ということだ。

どうしてそんな読み間違いが起きてしまったのだろうか。

◆『2台体制』という足かせ

ポルシェもアウディも、去年からルマン24時間には3台を参加させた。対するトヨタは、2台体制というのが苦しかった。

耐久レースの数の原理というのが存在するという。”6時間までなら1台でなんとか行ける。6時間を超えたら2台が必要。24時間は3台が必須”というものだ。WECの監督だった木下美明前TMG社長の言葉である。ただし木下さんは、”苦しい条件の中で勝つのがトヨタの流儀”とも仰った。

ただし、これは本心ではなく、そう言わざるを得ない状況にあると考えたい。なぜかといえば、本社からの予算規模で”2台体制”を強いられているとしたら、そこで文句を言っても始まらない。その範囲でできることをするのがエンジニアとして当然だからだ。

とはいえ、生産車とレーシングカーは大きく異なることがある。コストと性能の順番である。生産車では、販売される自動車を商売として存在させるために、まず、コストが優先さる。慈善事業ではないので当然のことだ。しかし、レーシングカーは、無駄な金を湯水のごとく使えはしないとしても、性能向上のために必要であれば、コストは最優先でなくなる。

兵器を思い起こせばその理由がすぐにわかるだろう。コストを削ったために、性能が下がってしまっては存在意義がなくなる。闘いに勝つためのレーシングカーは、兵器にかなり近い存在である。必要なものには、最低限の金がかけなければならない宿命なのだ。

トヨタは、2台体制での参加を強いられた瞬間に、大きな足かせを嵌められていた。強力なライバルであるポルシェとアウディが3台で参戦する24時間レースで勝機を見いだすとすると、相手がつぶれることを想定し、その範囲でレースの作戦を組み立てるしかない。だから、トヨタは今年のルマンでは最初から、予選を無視して、徹底的に決勝レースを睨んだプログラムで6月最初の1週間を進めることにしていたはずである。

要するに、徹底的に2台のマシンのトラブルを回避しつつ、細心の注意を払って、安定したペースで走り続ける作戦である。そのタイムは、3分23秒辺りに設定していたことが、レース中のペースから伺えた。

8メガジュールというやや乱暴とも思えるモーター出力を選択してストレートスピードを稼ぎだすことにしていたポルシェ919Hybridである。3分20秒を切るタイムで走行すれば、24時間持たない、とトヨタ陣営は読んだのだ。しかし、その予測は外れ、ポルシェ919Hybridは、まったくトラブルを起こさず、さらにスピードで劣ると思われていたアウディR18 e-toron quattroも、予選並のラップタイムをレース中に連発、ピットインの度にポルシェ919Hybridとの順位を入れ換えるハイスピードバトルを繰り広げた。

◆取り残されたトヨタ

トヨタTS040 HYBRIDは完璧に取り残され、粛々とレースを走り続けることしかできなかった。途中、中嶋一貴も加え、アンソニー・デビッドソンとセバスチャン・ブエミの3人によるエースカーが、デビッドソンの「自分のミス」と認めたクラッシュで遅れることはあったが、他はまったくノントラブルで24時間を走りきった。トヨタは、想定どおり、きっちりと83回目のルマン24時間を走りきった。しかし、3台のポルシェと2台のアウディが先にゴールしていた。

そして、もう一点見おとせないことがある。2台体制では、トヨタが採用できる作戦は、それしかなかったということだ。2台の足かせをかまされた瞬間に、マシンのポテンシャルレベルも、”壊れない範囲”でしか考えることができず、したがって、駿足のクルマは、技術があっても用意することができなかったのだ。

仮にトヨタが3台で戦えることになっていたら、今年のルマンはまったく違う展開になったことが容易に想像できる。そうすればトヨタが勝つ、というほど簡単なことでもないが、少なくとも、時代遅れの文字通りの”耐久レース”で、世界中に恥をさらすことはなかった。

そして、問題は、その恥をかいたのは、現場で精一杯戦ったメンバーだった、ということだ。もしかすると、”何やっとるのだ”と上層部からお叱りを受けたかもしれない。トヨタ全体のブランドイメージとして、世界中の多くのユーザーに”ルマンの敗戦”が広がったことは間違いのないところだから、叱責は当然だが、そうなった原因は、現場にではなく、2台体制でルマンを押し付けた上層部にある。叱責されるべきは彼らだった。

その4に続く)

photo by TOYOTA RACING
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