タイヤバースト事件が気になる-その3:トレッド剥離とバーストは別問題
(その2からつづく)
その1:回転方向とタイヤ性能
その2:なぜ回転方向を変えたのか
その3:トレッド剥離とバーストは別問題
その4:チームは言うことを聞かない?
◆トレッド剥離とシルバーストンのバーストは別問題
さて、ここで問題を整理しておこう。今年、ピレリは、去年のタイヤが固すぎて話にならないというチームやドライバーの意見をくみ取って、かつ、FIAからの要請で、耐久性を下げたタイヤを供給することになった。ピレリは、”面白いレースに貢献する”という目的を掲げて、タイヤを変更した。
ところが、そのタイヤの表面が剥離して”デラミネーション”という新語が頻繁に使われるようになった。知ったかぶりの言葉の乱発が迷惑だったことを我慢すれば、たしかにタイヤの使い方がレースの行方を変えることになり、面白いレースが展開していた。
だが、トレッドがはがれる”デラミネーション”が頻発すると、危険なだけでなく、ピレリとしてもイメージ上よろしくない。第一危険、ということで、その対策として、ピレリはトレッドの接着方法を変え、カナダGPのフリー走行でトライした上で供給した。
そのタイミングがシルバーストンだったのだ。シルバーストンは、高速コースとして知られる。強い横Gがかかる時間がきわめて長く、それはタイヤに大きなストレスをかける。結果、フリー走行で1台がバースト、重い燃料を搭載してタイヤにさらに大きなストレスがかるレースでは、たった7周目で、トップを快走していたL.ハミルトン(メルセデスAMG)の左リヤタイヤがバーストし、続いてF.マッサ(フェラーリ)、J.E.ヴェルニュ(トロロッソ)、S.ペレス(マクラーレン)のタイヤが破裂した。すべて後輪だった。
ピレリは、この問題を調査し、問題は、構造やコンパウンドではなく、タイヤが正しく使われていなかったことで起きた、という声明を出した。たしかにそれが原因だったのだが、指定された回転が逆方向になるような使い方をするな、という”指令”を徹底できなかった。ここにピレリの責任の一端が明らかに存在した。
トレッド剥離の問題を解決するために、ピレリが講じた対策が、バーストにつながった、という見方がある。具体的には内容は明かされていないが、その方法には、バーストのリスクを懸念する声も上がっていた。。しかしそれ以前に、去年の構造から今年に変えたときに、すでに問題はあったとする向きもある。
去年、不評だった固すぎるタイヤのラジアルベルトは、ケブラー×ケブラーの構造だった。構造が強固すぎ、だから耐久性が高く、高いのはいいけれど高すぎて、さらには温まらないタイヤと不評を買った。
そこでピレリは、ケースのベルトを、ケブラー×スチールに変更した。しかし、そのタイヤは、ピレリの思惑(元はといえば、FIAからの要請)通りに耐久性は落ちたもの、トレッド剥離という事態を生んだ。
なぜそうしたかは、ピレリにはピレリの見解があるはずだが、ケブラー×スチームにすると、ケブラ×ケブラーよりもケースが柔らかくなることからデグラデーション(簡単に言えば磨耗)が高まり、耐久性は落ちる。これはある種ピレリの(FIAから要請された)狙い通りだが、耐久性を考慮するなら、ケブラー×ケブラーのケースのままで、ゴムの配合を変えることでも対応できたのではないか、という見方もある。ちなみに、ケブラーを半分スチールにすれば、当然コストは下がる。
(その4につづく)
[STINGER]山口正己