カラスの足跡–カウントダウン企画 2018F1GP開幕まであと89日
(90からつづく)
F1が楽しみになる、あんな話、こんな話。
レーシングタイヤは、一般公道を走るクルマのようなトレッドパターンと呼ばれる溝がなく、“スリックタイヤ”と呼ばれる。スリックとは、なめらか、とかつるつるという意味だ。
つるつるだと一見、滑り易そうだけれど、タイヤのグリップは接地面積が大きければ大きいほど、同じ硬さのゴムならグリップは高くなる。
溝があるよりない方が接地面が広くなるわけで、だからスリックタイヤが最もグリップが高い。この理屈は、スリックタイヤが誕生する遥かに前から理解されていたのだが、スリックにならなかったのには理由がある。
スリックタイヤで最大の問題は、放熱ができにくいことだった。熱がこもってタイヤが壊れてしまう。溝があれば空気に触れる表面積が増えて熱を逃がせるけれど、スリックにしてしまうとそれができにくい。トレッドは、グリップのためではなく、放熱のためだったのだ。
接地面積は増やしたいからスリックがいいけれど、冷却のためには表面積を増やしたい。この二律背反の要求がスリックタイヤ誕生を遅らせた。
もちろん、一般道では、路面の汚れや天候によって変化する路面状況にすべて対応する必要があるのでトレッドは必須だけれど、レーシングタイヤは、たとえば雨が降ればピットでタイヤを交換できる。
1970年に入った頃、トレッドパターンは姿を消し、スリックにほぼ近いタイヤが出現した。トレッドパターンはなく、目尻のシワみたいな“カラスの足跡”と呼ばれる小さな溝が掘られたタイヤが登場。さらに冷却の開発が進んで、スリックタイヤが登場し、それからあとは、レーシングタイヤはスリックというのが常識になった。
(88に続く)
[STINGER]山口正己
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