【緊急特集】F1から見る未来像①–桜井淑敏さんに聞くホンダのテレメータリング3/3
(その2/3からつづく)
ここでコロナ騒ぎに戻ると、日本の対応は甘いと言わざるを得ない、というのが桜井淑敏の意見だ。このままいくと、世界のなかで収斂が最後になってしまうのではないかと気がかりになる。
「中国は強権を発動して、医療のすべてをコロナ対応に向かわせました。結果として、ガンなど他の病で倒れる犠牲者が出るなどネガティブな側面もありましたが、その中国を始め、イギリス、イタリア、アメリカなどは、5~6カ月で一山超えることが期待されています。それを考えると、日本ほど検査していないところはないようにみえます。それはどうなんだろうか、と心配になります」。
◆真実をつかむこと
1500㏄で1500馬力といわれたとてつもないパワーをひねり出したF1エンジンを生き物と捉えてみると、遠隔地でのテレメータで多くの意見を引き出してチャンピオンエンジンを育んだのと同じく、コロナ対策もまずは真実をつかむことが重要ということになる。
「ドイツやアメリカは、1日1万人の検査を実行、韓国もそれに習っている。検査は、真実をつかむのが目的です。海に囲まれた日本は、伝染というリスクからは、陸続きのヨーロッパより自然環境的には有利なはずなので、まずはコロナを直視すべきと思います」。
◆ワクチンの開発
コロナに対する特効薬となるワクチンの研究開発にも後れをとっていると指摘する専門家が多い。フジフィルムが研究を進め、より安価で効果が期待できるアビガンなどのワクチンが注目されているが、最終的に的な使用が承認されておらず、初動の後れが懸念されている。
「もともと日本は、基礎研究に財源を投資しないことから、その開発も頓挫したままのようです。できれば日本から、全世界のコロナに苦しむ人々を救うワクチンを送り出せることを期待したいですね。まぁ、ワクチンが出るのはどこの国からでもいいけれど、この20年間、日本は基礎研究に金をかけないままで進んでしまった感があります」
「私の知り合いの科学者が、コロナ・ワクチンの研究で中国に渡りました。独りで悶々と研究するのではなく、多くの人員で知恵を出し合う環境で開発の効率化を図る考えですね。迎え入れる中国側はどうぞどうぞ、と歓迎ムードと聞いています」
「日本でも、1日も早く簡易検査を、血液検査で分かる様になってほしいですね。ベッド数が少なく、医者の数も足りていないことも打破しなくてはならない。ドイツは発症率を1%に抑えています。日本は3.5~4%。感染者数が認識しきれていないことから、分母が小さいとは言え、4倍くらいの感染者がいると予測されているようですから」
コロナのウィルスCOVID-19は、2カ月くらいしか生存できないとされる。発祥地の武漢は完全外出禁止、イギリスやイタリアは食事の買い物だけが許され、テレワークが推奨されている。
「出勤しなければならない分野もありますが、私がアドバイザーを務めるイギリスの高性能モーター製造会社も、60人ほどの社員の多くをテレワークとし、政府の認可を受けた10人ほどの出社で急場を凌いでいます。スカイプを活用して遠隔会議を行なえば、その場で図面を確認し、指摘できる。むしろ今までよりいいところも多い。イギリスと週に2回のテレビ会議を行なって効率を上げています」。
スカイプによるテレワークには、これまでの会議に比べて、“確実性”という大きな利点もある。
「スカイプ会議を、時間を決めて行なうことで、“後で”とか“次の機会に”という感覚がなくなります。その時間に必ず画面に参加していなければならないので、欠席者は一目瞭然。集中力も上がって仕事が捗るんです」。
これまで行なってきた通常の日本の会社のやり方では、集中的に頭脳を使っていない、という見方もできる。
「例えば営業部員は、これまでのように人との面談ができない状況になるわけです、出歩けないので、客に会えないですからね。そこで頭を使って工夫する営業と、そうではない営業の差が明確に付くことになります。スカイプ会議はダラダラすることが許されないですから、そうした理由から、仕事を見直すいい機会になるのではないかと思っています」。
日本の会社の役員も務める桜井は、これまで、月1回の取締役に参加していたが、いまは外出禁止の上、新幹線やホテルでの感染のリスクを考慮して、スカイプ会議に徹することにした。
「F1チームでも、トータルで150人が動いているなかで、無駄な動きをする者は排斥されました。真実の情報共有化が進むと、これまではそれぞれの仕事が見えるのは8~10人だったけれど、これが100人/150人になっても、テレメータリングなら情報の共有化ができるわけです」。
桜井が関係するイギリスの会社も、10年前の4人から現在は60人に成長した。人種も多様になったなかで、コロナ騒動が起きたなかでテレメータリングに変わるスカイプ会議という方法で、データを共有化し『沸騰型シテム』とすることで高い効率が期待できる、とうことだ。
「まずは、真実を知り、それを共有すること。コロナに対しても同じことが言えると思います」。
文中敬称略
[STINGER]山口正己
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