【山口正己の提言】コロナ騒動とマスコミ その10
(その9からつづく)
さらにいえば、トヨタは驚くほど大量の有価証券を保有しており、現在の財務は為替や株価で大きく左右されるが、これは為替相場や世界の株式市場のシステムが破綻しない限り、「安定資産」にほかならない。従って、株価がコロナショック以前の指標であるNYダウで2万8000ドル前後、日経平均で2万3000円前後が回復するだけで、瞬間的にプラス利益の決算となる可能性が非常に高いとみられる。
見るべきところは「本業」=クルマづくりと販売なので、今回の中間決算の内容は、「トヨタの底力」と評価すべきだ。
【新時代における国民の幸福追求】というアナウンスは、章男社長の「危機感の表明」として、トヨタ社員だけでなく、全世界の人々へのメッセージといえる。過去を振り返ると、トヨタが被った、もしくはこれから受ける被害は、今回よりもリーマンショックやタイの洪水が遥かに大きかったはずで、コロナ・ショックによる被害は最小限に抑えられているといっていい。
実際に、中間決算の発表前の当初予想利益からの減少幅は、日経新聞でさえ4割とセンセーショナルに報道したが、実際には8割減とさらにショッキングな下げ幅だった。トヨタは敢えて自らを犠牲にして、全世界の人々に危機感の警鐘を鳴らした、と考えるべきだろう。
「コロナに限らず危機はいつでも訪れる」、もしくは、「危機に対応する力を養っていかなければならない」、ということを、トヨタという巨大企業を“敢えて晒けだして”、もしくは“敢えてトヨタを敗者に見立てて”、復活を喚起することが、一番の狙いと受け取るべきなのだ。
日産がルノーに支配され、ゴーンが登場し、その後にV字回復したのは、決して経営陣が刷新されたことが理由ではないはずだ。「日産を支援したい」「日産に復活してもらいたい」といった消費者のマインドが働いたことで、実際の数字に反映されたと言っていい。まさに、経済は人が動かすのだ。
今回の中間決算で、トヨタがコロナ・ショックからの再始動に向け、『そこ』を狙っていたとすると、素晴らしいマーケティング力ということになる。何十億円を費やしたCMよりも、遥かに販売に寄与する宣伝効果といえるからだ。
(その11につづく)