「トヨタがF1撤退に至った理由」というある内部証言(4/4)
◆モーターレーシングとクルマに対する認識不足でトヨタが失ったもの
章男社長は、F1撤退会見で、「こういう時だからこそ、次の世代に何を残さなければならないのか、ということを、原点に帰り考えるべきだと思いました。自動車を通じて豊かな社会作りに貢献するというのがトヨタの創業時からの考え方であり、これからも、自動車文化の一層の推進に向け、様々な活動を続けていきたいと思っております」と語りながら、その足元を見失って根本的な判断ミスをしたことになる。
2010年用に開発が続けられているTF110。赤いヘルメットは小林可夢偉を伺わせる。
この解釈のズレは、豊田社長だけでなく、トヨタ自動車の上層部のほとんどの認識とみて間違いなさそうだが、証言は、「この巨大な穴は、”グラスルーツ”では埋まらない」と訴えている。
“グラスルーツ”とは、章男社長が標榜するニュルブルクリンク24時間を頂点とする“参加型モータースポーツ”のことである。それはそれで存在意義あることだ。社長自らが楽しむ場は、そうした計画によって醸造されて広がるだろう。しかし、社長であれ誰であれ、それが個人ではなく日本全体のモーターレーシングや、そこに根ざす”クルマ”という文化的側面を育むために何が必要なのか。トヨタ自動車は、それを情報不足の大きくズレた認識による判断で行おうとしているのだ。そのことに、章男社長はもちろん、側近を含む周囲も気づいていない。気づこうという姿勢がない、という方が当たっているかもしれない。
証言は「日本のモータスポーツは大きなモノを失った」と続ける。「トヨタは、もともと、モータスポーツに理解がある会社とは思ってなかったが、これほど、モータスポーツを理解していない会社だったとは」。社内から送られたある証言は、「書き進むうちに虚しさが募ってきた」、と結んだ。