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◆閃きの序章–三本の指で豆腐をつかむロボット

10年ほど前に、トヨタ自動車の工場で、研究用のロボットを見せてもらった。自動車メーカーの工場は、あちこちにロボットがいる。組み立てや溶接、塗装もロボットだ。人は最後の仕上げ確認を含めて、ロボットを管理しコントロールする。そのトヨタの工場で、いろいろな産業ロボットに感動した後でも、その研究用ロボットは新鮮だった。

ビデオに収録されていたのは、金属製の3本指で見事に豆腐をつかむロボットだった。完璧な力配分で制御された金属製の指が豆腐を壊さずにつまみ上げる姿を見て感心していると、開発者が一言。「みなさん、もしかすると持ち上げているのはプラスチックの箱か何かじゃないのか、という疑いを持たれたかもしれません。なので、豆腐であることを証明します」、と言ってビデオを進め、3本指が豆腐をグシャリとつぶす場面を見せてくれた。お見事!!パチパチパチ。ビデオはそこで終わった。

しかし、待てよ、なのである。もし、三本指が自分の指だとしたら、きっと、指にベッタリ絡みついた豆腐を、ピッピッと手首を振って振り落とすんじゃないのか?

フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』によると、”ロボット (robot) とは、人の代わりに何等かの作業を行う装置、若しくは「人のような」装置のこと”とある。つまり、ロボットは、より人間に近付こうとして作られているはずだ。ならば、豆腐をつかむというのは明確なひとつの目的ではあるけれど最終目標は、より人間に近いところにあって、豆腐をつかむことではないのではないか。豆腐をつかむだけでは、ロボットと言わずに作業機械だ。

フランスのポンピドー広場に置かれた酔っぱらいのロボットの話を聞いたことがある。日本人の感覚では、酔っぱらいとロボットはつながらない。 “役に立つのがロボット”みたいなイメージがあるからだ。そういう頭では、お手伝いを何もしないロボットというのはイメージとして浮かばない。クルマを作ったり、洗濯したり、掃除したり。鉄腕アトムも正義を守るという”仕事”がある。しかし、酔っぱらいのロボットは酔っぱらっているだけで何も役に立たない。何もないものを作る、という発想がちょっとショックだった。

考えてみれば、どのロボットも、作ろうとしているのは”人に近いもの”のはず。ちょっと悔しいが、フランス人の勝ちである。フランスには、インスピレーターがたくさんいるんじゃないかと思えてきた。

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