なんでもレーシングカー-2・石のレーシングカー
◆夜中に目が覚めた。紙のレーシングカーのことを書いて、石の方はお座なりにしたので、石の神様がお怒りになったのだ(違うと思う)。ともあれ、ということで、石である。
◆石というと硬いイメージがある。しかし、軽石は全然硬くない。その昔、現在27歳の長男が小学生の低学年のころだから、ざっと20年前。相模湖でキャンプ場の実家に帰った夏休み。お袋が、”モト君の夏休みの工作にどうかと思って”と両手でもてるくらいの軽石を持ち出してきた。相模湖にゴミと一緒に流れてきたのを拾い上げておいたのだそうだ。
◆では、お父さんがまず様子を見てあげよう、ということで、「石」、というイメージがあるから、とりあえず鉈で削ってみる。サクサクと削れる。鉈じゃなくて、切り出しナイフでもいけそうだ。いけるいける、サクサクサクサク。すげぇ面白くなった。
◆軽石でレーシングカーなんか作ったことある人はいないはずだ、という、人と同じのが嫌いで違ったことをやりたがるお父さん(オレです)は、ハマりまくり。軽石のいいところは、サクサクと削れる、というより、”そこに埋まっている彫刻を掘り出す”感じだな、ミケランジェロみたいに(笑)。そしてなにより、石の目が粗いから、多少デフォルメが正確でなくても、誤魔化しが効くところだ。
◆なので、サクサクと妄想の中で創作活動が進む。で、凄いことに気がついた。完成して褒められている自分が見えるのだ。完全にイッチャッてるトランス状態。ということで、すでに息子の夏休みの工作を完璧に取り上げて、削り込みハイな状態。数時間で完成した第一号が、ずんぐりしたモデルである。
左が処女作。右が最終作。
◆その後、東急ハンズや、伊東屋や、近所の金物屋や今で言うカインズホームなどで軽石を探しまくった。しかし、ないのである。そうこうしているうちに、鹿児島の女房の実家からも軽石が届くようになった。
◆鉈から始まった切削道具は、切り出しナイフからカッターナイフ、彫刻刀と進んで、要するにどんどん細かい作業ができるようになった。薄いウィングも、こなせるようになった。というか、最初から、彫刻刀で削れることに気付よ、なのだが。
◆石というより、固まった白い泥、というのが実は軽石の正体である。だから湖に浮かんでいたのをお袋は拾ったのだ。
◆最初は、レーシング・スポーツまがいがターゲットだったが、そのうちフォーミュラも作ってみたくなった。というか、九州から届くようになる以前に手に入る軽石が、かかと擦り用の細長いのしかないので、大きなものが作れなかったからだが、ともあれ、面白いように削れるのが軽石である。
フォーミュラのサイドポンツーンとタイヤだけ残っていた。ボディ本体はどこに行っちゃったのかなぁ。
◆自分が天才だと思ったのは、タイヤの部分。500円玉を当ててサクサクやる。言わば治具である。かくてフォーミュラ用のタイヤも、10円玉と100円玉で、前後輪の大きさの違いが削れるようになった。
500円玉とか10円玉を当てて、タイヤを掘る。見てほしいのは500円玉を当てて削ったリヤタイヤ。
◆しかし、行くだけ行ったら、そこで愚かさに気づくのである。細かすぎてディテールに入ってしまった瞬間に、それは単なる作業になっちゃって、創作活動ではなくなったことに。そこで創作意欲は一気に減退した。
◆最後に作ったものはかなり細かい作り込みができるよにうなっていたが、最初に鉈で削り始めたもっさりした処女作が持つズシリとした存在感には届かないのである。しかし、一端入り込んだら後戻りはできない。ここで自分が芸術家にはなれないことを悟った。
もろいので、リヤウィングは折れた(笑)。
◆それでも、ジウジアーロの跡継ぎであるファブリッツィオに見せたら褒めてくれたので自己満足。