F1/モータースポーツ深堀サイト:山口正己責任編集

F1/モータースポーツ深堀サイト:山口正己責任編集 F1 STINGER 【スティンガー】  > F1に燃え、ゴルフに泣く日々。 >  >     続・改めて、フォーミュラEの“なぜ”を考えてみる

	F1で巡りあった世界の空。山口正己ブログ

続・改めて、フォーミュラEの“なぜ”を考えてみる

未来的に見せる工夫が山盛り。というか、総見せることに集中している。

◆フォーミュラEとF1を比較すると、若干怖い状況が見え隠れする。

◆ドライバーは、これまでF1優勝者は、ヤルノ・トゥルーリただ一人。来年、フィリッペ・マッサが参戦することになっているので、初めてF1の複数ウィナーがすることになるが、これまでは、ドライバーのレベルは高いとはいえなかった。

◆マシンのポテンシャルやイベントとしての魅力も、圧倒的にF1優勢。だが、スポンサーの流れとその将来性は、フォーミュラEに分があるように見える。F1のスポンサーは、グローバル企業だったはずだが、最近その傾向が崩れている。特に、マクラーレンの場合、それが顕著だ。

◆マクラーレンのザック・ブラウンは、F1をより大衆的にしようとしているのかもしれないが、ロン・デニス時代に、マクラーレンのスポンサーにケンタッキー・フライドチキンがつくことは考えられなかった。さらにそれが、アメリカ本国のKFCではなく、インドネシアのローカル企業だったのは驚きだった。

◆ザック・ブラウンが目指している(?) F1の大衆化に対して、フォーミュラEのスポンサーはグローバル企業がターゲットであり、世界戦略を標榜する企業が並んでいる。しかし、まったく逆に見えながら、実はこれも大衆化の現れといえるかもしれない。多くのグローバル企業がフォーミュラEに目が向いているのは、一般大衆の理解を得やすい、というか、“ちゃんと考えている企業に見える”からかもしれない。ブルジョアのものだったモーターレーシングが善し悪しは別にして大衆化したということだ。

◆世の中には二つの現象がある。正しいことと間違っていることだが、物事がすべて正しい方向には進むとは限らない。誰でも情報を受け取れる“情報社会”の中では、正しくなくても、多くの人がそう思ってくれる方向、つまり真実の方向ではなく“そう見える方向”に社会が流れていく。そして、あざとい方々は、それを見越して、先回りする。

◆F1とフォーミュラEのイメージを比べてみると、部外者からの大方の見え方はこんな感じだろう。F1は、何となく古くさくて、資源を浪費する存在に見える。実際には、与えられた燃料を最大限有効に活用しようとすれば究極のエコ思想になる。高度になればなるほどその傾向は強まり、だからF1が最もエコということだ。効率から考えれば当然のことだが、使い方がスピード重視なのでそう見えないだけなのだが、そうした“理屈”より“イメージ”の方が多くの人に認識されてしまう。

◆例えば、ブリヂストンは、タイヤのノウハウをF1で培ったはずだが、それを宣伝で使っていない。グリップがよく長持ちする、というF1タイヤのノウハウは、そのままそっくり市販車に活されているはずだが、そのように説明していない。説明するのが難しく、下手をすると誤解されかねないからだろう。

◆対してFEは、テクノロジーレベルはF1に比べると高くはない代わりに未来的なイメージが完成している。世界中の大都市の市街地だけを選んで開催地を選定しているところも、“新しさ”をイメージさせるために隙がない。例えば日本では東京が候補地の中心になるが、横浜はOKだが名古屋は考慮が必要と言われる。この徹底ぶりも、先進的なイメージとしてのフォーミュラEをブランド化するための作戦として見事に機能して分かりやすさに貢献している。

◆選挙で当選するための公約で大切なのは、“正義に見えること”であり、深く考えなければわからない真の理想像は得票につながりにくい。正義に見えることを掲げて票をとってしまえば勝ち。誰にでも情報が届く時代は便利になったが、理想を追い求めていると取り残される。情報は、万人に届くようになったが、万人のかなりの割合が深く物事を考えないから、“正義に見えること”を研究して公約にすれば勝ち。ややこしい理屈は本質であっても選挙で勝つの難しい。

◆フォーミュラEに関係するメーカーのマーケティング戦略は、多くの票を獲得する、という意味で誠に正しい方向に向かっているということだ。しかし、それが本質的に正しいかどうかは別の問題だ。結果として、一般的に理解されやすいフォーミュラEに、だからヨーロッパのメーカーやスポンサーが流れている、という図式になる。

◆F1が面白くない、という意見が聞かれるが、個人的に私は今のF1がとても面白いと思う。正しい情報を自ら取りにいく努力をしているからだ。元々モーターレーシングは、情報がなければ単にグルグル走っているだけで面白くない。表面的に見える順位の入れ換えが最も分かりやすくて“面白さ”の基本だが、その形は、たくさんの票をとる選挙に似ている。そもそもF1は、最高峰であることさえ理解していれば、ブランドとして捉えることでいつでも面白いのだが、その理解が足らないと、面白くない、といいたくなる存在だ。

◆しかし、理屈はそうであっても、面倒ではない方が好まれる。ホンモノのF1が衰退し、似非と言っては言い過ぎかもしれないが、いい奴に見えるフォーミュラEが伸びていく。なんとも複雑だが、しばらくはこの状況を眺めるしかなさそうだ。

photo by FormulaE

記事が役に立ったなと思ったらシェアを!

PARTNER
[協賛・協力企業]

  • CLOVER