モンツァの神は誰に微笑む?!
◆今週末は、イタリアGP。本場中の本場の1戦だ。イタリアGPといえば、毎年何かが起きる。特に、いまから30年前の1988年はその最たるレースだった。
◆この年、16戦15勝で圧倒的な強さを誇ったマクラーレン・ホンダがアイルトン・セナとアラン・プロストの手で連戦連勝を続けて迎えた第12戦、唯一落としたレースがこのイタリアGPだったが、このレースには、いくつもの偶然のドラマが重なった。
◆最初の偶然は、勝ったのが地元イタリアのフェラーリだったこと。創業者のエンツォ・フェラーリを亡くして28日目の出来事だったが、優勝したゲルハルト・ベルガーのゼッケンは28だった。
◆ゴールまで2周になったところで、トップを走るセナが、1コーナーで周回遅れのジャン・ルイ・シュレッサーに接触してリタイア、ベルガーがトップに立った。シュレッサーは、1968年フランスGPに無理矢理参戦したホンダの空冷マシンRA302で帰らぬ人となったジョー・シュレッサーの甥。このレースに、ナイジェル・マンセルが体調不良でピッチヒッターとしてウィリアムズのステアリングを握っていた。叔父と同じく、ジャン・ルイも、F1の経験がほぼなかったが、何かの怨念か、という囁きが聞こえた。
◆セナの前にプロストがエンジントラブルでリタイアしていたが、その原因が、新規に投入したパーツだったことで、ホンダの責任者だった木内武雄は、それが気になって、12連勝が費えたことは意識になかったという。連勝記録など表面的に見えるデータに大騒ぎするのは、外野の我々だということだ。
◆セナのマクラーレン・ホンダとシュレッサーのウィリアムズ・ジャッドが1コーナーのシケインで絡んでセナがリタイアした瞬間、場内は一瞬、シンと静まり返った。プロストがリタイアして、フェラーリのベルガーとアルボレートが2位-3位。イタリアのファンたちはそれで十分だったのに、セナが消えて、フェラーリが1-2になってしまった。これ以上の喜び方がわからない。現実を受け止めるための2秒ほどの後、場内は爆発したかのような大歓声に包まれた。
◆モンツァの表彰台は、毎年、大勢のティフォージがなだれ込むことで知られているが、1988年は、いつもに輪をかけて興奮状態だった。表彰台のしたに雪崩込み、ベルガーとアルボレートを崇めるように両手をかざすファンの群れ。崇高な儀式のようなその様子をみて、「これがグランプリか」と思わずつぶやいたら、涙があふれて止まらなかった。
◆今年のフェラーリは、マクラーレン・ホンダ時代のように弱くないから、フェラーリがトップに立っても1988年のようにスタンドは感激しないかもしれない。だが、今度は逆に、セバスチャン・フェッテルとキミ・ライコネンに勝利の責任が強烈なプレッシャーとなってのしかかる。今週末のモンツァには、どんなドラマが待っているのだろうか。
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