F1/モータースポーツ深堀サイト:山口正己責任編集

F1/モータースポーツ深堀サイト:山口正己責任編集 F1 STINGER 【スティンガー】  > F1に燃え、ゴルフに泣く日々。 >  >     ノリスへの期待に見るイギリスの報道

	F1で巡りあった世界の空。山口正己ブログ

ノリスへの期待に見るイギリスの報道

マンセルのタイトル目前でこのエンジンがもらえなくなって、イギリスは、ブンむくれ。

◆日本に入ってくる海外の情報の多くがイギリスから飛んでくる。イタリア語やフランス語より、英語の方が親しまれている、というのがその理由だ。最近では、日本独自の情報も見られるが、全体的なニュースというくくりでは、まだまだ“イギリス情報”が中心になっている。

◆そこで、注意しておきたいことがある。イギリスの情報の総てが正しいとは限らない、ということだ。例えば、英国籍のマクラーレンのニュース、中でもイギリス期待のランド・ノリスの扱いは、自国のドライバーに対する期待といえば聞こえはいいけれど、ある種の偏りが見え隠れする。

◆ホンダの第二期F1時代には、こんなことがあった。1987年のイタリアGPで、マクラーレン・ホンダのジョイントが発表された時の話。マクラーレンは、アラン・プロストとアイルトン・セナという強力なラインナップで1988年を闘い、エンジンに最強と謳われたほホンダを使う、という発表だった。マクラーレンはイギリスだが、イギリス人には別の思考回路があった。マクラーレンよりもウィリアムズだったのだ。

◆その理由は、ナイジェル・マンセル。発表が行なわれた1987年のタイトルを、ネルソン・ピケと争い、僅かの差でピケに油揚げをさらわれたイギリスの英雄である。彼らにとって、マンセルこそチャンピオンに相応しい、と信じて疑わなかった。来年こそ、1976年のジェイムス・ハント以来久々のイギリス人ワールドチャンピオン誕生だ、と思っていたところで、ホンダがエンジン供給をストップした。イギリスは怒りに震え、ホンダ車の不買運動まで起きたと伝えられた。

◆マクラーレンは、1988年の体制発表がモンツァの公園の一角にジャーナリストを集めて行ない、マクラーレンがホンダを獲得し、二人のスーパースターのコンビになるということよりも、ホンダがウィリアムズを裏切った、というイメージがイギリス人の中に広がった。イギリス人が分かりやい人種であることが、追々明らかになった。

◆当時、中嶋悟のヨーロッパF2チャレンジのレポートを依頼していたイギリス人ジャーナリストの故アラン・ヘンリーは、私が編集長を務めていた『auto technic』誌に書いたその原稿で、それまで“ナカサン”と親しみを込めて呼んでいた中嶋悟を、いきなり“ナカ・ジャップ”と書いてきた。

◆ホンダのF1事務処理の窓口であり、現場でさまざまな交渉事を行なったモーターレクリエーション推進本部の野口義修さんは、後に上梓した『F1ビジネス戦記』の中でそのことに触れ、「ウィリアムズとは契約上、円満終了だ、といっても取り合ってくれない。サーキットで取り囲まれて、延々と文句を言われるのだ」と回想している。その後、ホンダのモーターホームでカレーや日本食が振る舞われるようになったが、それは日本人スタッフや報道関係者用という以前に、海外、中でもイギリス人ジャーナリストに対しての“接待”の役目があった。エンジンだけが強くても、F1の社会でははじき出されてしまう、ということだ。

◆話をノリスに戻そう。イギリス出身のランド・ノリスは、“ハミルトンの再来”と期待されている。これはF1パドック全体の期待でもあるが、中でもイギリス人の期待は大きい。結果として、ノリスに対する表現は、誇張した表現になる。この報道姿勢に、当のノリスは若干困惑気味で、「ルイスの時といまは状況が違うよ」と肩をすくめている。もちろん、ノリスの才能は並のレベルではないけれど、“分かりやすいイギリス人”の表現であることを差し引いて、ノリス情報に接する方がいいかもしれない。

◆彼らにとって、ノリスの前歯が隙っ歯であるところがハミルトンに似ている、ということまでもが応援の対象になったりする。それは冗談としても、英国の18歳は、まだ本格的なデビューを飾っていない。ルイス・ハミルトンは、デビュー戦でいきなり表彰台に乗り、5連続表彰台の後の6戦目で優勝、それもポールポジションからのスタートで、優勝いきなり2連勝という戦列なデビューイヤーだった。同じ活躍? 今のマクラーレンでは、まず無理。2020年? さてどうなる。マクラーレンをトップクラスに戻すことの方が、イギリスにとって先決問題であることに、ジョンブルの国の人々は気付かなければならない。

photo by[STINGER

記事が役に立ったなと思ったらシェアを!

PARTNER
[協賛・協力企業]

  • CLOVER