アリバベーネ更迭で思うこと
◆フェラーリF1チーム、スクーデリア・フェラーリと書いた方がかっこいいが、代表だったマウリシオ・アリバベーネが、新年早々更迭された。いや、更迭という表現はイメージがよくないので、フェラーリとの5年間の務めを終えた、でもいいけれど、2019年のフェラーリのピットでアリバベーネのいかつい顔を診ることはなくなった。
◆代りに代表になったのは、これまでテクニカル部門を率いていたマティアス・ビノット。アリバベーネは、フィリップモリス時代から営業畑の経験を持っていたことから、ビノットにすることでフェラーリは180度方向転換したことになる。
◆ところで、更迭でも退職でもいいが、“トップマネージメントと長い時間をかけて議論した末に決定した”とフェラーリが言う今回の人事だから、要はメルセデスにタイトルを奪われた『責任』をアリバベーネは問われてチームを去ることになったわけだが、さて、『責任』とはなんだろう。
◆レースは、スタートしたらドライバーの責任、という声今でもを時々聞く。しかし、それをレース前に口にする監督がいたとしたら、それはレースが分かっていないか、ライバルを惑わせるための意見のはず。スタートしても、無線などによる情報交換で、いつピットインするのか、ペースをどうするのか、タイヤをどう使うのかなど、チームは子細に情況を把握してドライバーをコントロールする必要があるからだ。
◆通信法で縛られている日本の場合は若干事情が異なるが、F1の場合、通信範囲はコクピットとピットだけでなく、チームの拠点やエンジン・サプライヤーの本拠地との情報交換が行なわれ、最善のやり方をドライバーに指示している。
◆例えば、マクラーレン・ホンダの場合を例にとると、二人のドライバーとピットがつながっているのはもちろんだが、ワーキングのマクラーレン・テクノロジーセンターの戦略室と、栃木県さくら市のホンダR&Dセンターもつながっていて、さくらのスーパーコンピュータに様々なデータが届けられて演算され、そこからレースの流れに指示が出ることもある。
◆トラブルが出た場合、即座にデータが分析され、不具合を探し出してそこから修復作業が始まる、という具合だ。
◆ちなみに、マクラーレンの管制システムが、世界一発着の多いヒースロー空港のフライト管制に使われているが、要するに、徹底した闘いの場であるF1のノウハウが、まったく関係のない分野に活用されている、ということだ。
◆話を戻そう。アリバベーネは、そうした情況の中で行なわる闘いの雄であるスクーデリア・フェラーリF1の責任者だった。結果として成績が悪かったから更迭されたのではなく、彼の指示が失敗だったから辞めさせられた、ということだ。
◆例えば、鈴鹿の日本GPで、セバスチャン・フェッテルは、スプーン入り口でフェルスタッペン+レッドブルのインを突いて接触、レースを失った。動作としてはフェッテルのミスだったが、そうさせたのはアリバベーネだった、という考え方だ。それがなければ、終盤のタイトル争いは別の形になったはずだ。
◆F1のチーム運営には、トップチームから年間数百億円がかかっている。結果によって、当然イメージが上下する。フェラーリは、F1活動を行なうために市販車を売っているといわれるが、そのイメージで売り上げが落ちては、メインのF1活動に支障をきたす。その責任をそれぞれが負っている。その頂点にいたのがアリバベーネだった。
◆SF71Hが、2018年最速のマシン、といわれ、シーズン序盤はメルセデスをリードしていたフェラーリが、結果としてタイトルを取れなかった責任がアリバベーネに降りかかった、というのはそういうことだ。
◆しかし、代表を変えれば勝てる、というほど簡単なことでもない。メルセデスの勝因は、パワーユニットの信頼性もさることながら、ミスのないチーム運営がモノを言っている。ハミルトンに限れば、2018年に無得点だったのはオーストリアGPの1戦だけで、このリタイアは、2016年のマレーシアGP以来、実に34戦ぶり。安定性でいけば、フェラーリがメルセデスに追いつくのは、そう簡単ではなさそうだ。
◆とはいえ、2019年はフロントウィングを中心に、空力のレギュレーションが大きく変わる。テクニカル部門をコントロールしてきたビノットの手腕が、もしかすると利いてくるかもしれない。