中村良夫さんのシューマッハ・インタビュー
◆1月3日に50回目の誕生日を迎えたミハエル・シューマッハに間近で初めて会ったのは、デビュー2年目のポルトガルGPを翌日に控えた夜だった。ホンダF1チームの初代監督である中村良夫さんと、写真家の間瀬明さんと、夕食のために訪れたカスカイスの外れのレストランでのことだ。
◆そのレストランは、F1関係者行きつけで、確か、ネルソン・ピケに教えてもらった記憶がある。1988年にレイトンハウスのイーヴァン・カペリが初めて表彰台に上がったその夜に、チーム全員でお祝いをした夜に、メカニックが料理を待つ魚が泳ぐ生け簀に飛び込んだ逸話もある場所だ。
◆若きシューマッハは、中村良夫さんを発見したフラビオ・ブリアトーレと共にこちらのテーブルに来て挨拶をした。ブリアトーレは、中村さんを本田宗一郎と勘違いしていたきらいもあったけれど、ともかくシューマッハを中村さんに紹介し、中村さんは、シューマッハの毅然として態度にいたく感心されていた。「カデットですな」。これが中村さんがシューマッハのファーストインプレッションだった。
◆中村さんは、その後、『GPX』で連載して3部作の単行本にした『F1グランプリ全発言』の中で、「比喩に誤解を招くかもわからないけれど、昔式に言えば、士官候補生・カデットである。デレデレせずにカチッとしたカデットである。堂々として臆するところがなく、しかも礼節をチャンとわきまえているのである。現在の日本からは消え去ってしまっている」と書かれている。
◆ちなみに、1992年といえばミハエル・シューマッハはデビュー2年目にして初勝利を飾った年、勝ったのはベルギーGPだったから、ポルトガルGPは初優勝ホヤホヤの23歳だった。もうすぐ20歳になるミック・シューマッハは、3年後に、偉大な父親のような毅然とした青年になっているのだろうか。
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