“これがグランプリだ”と思った瞬間–私の中の名レース回顧-2
2)1988年 モンツァ
◆その年、アラン・プロストとアイルトン・セナという当代切っての天才を擁したマクラーレン・ホンダは、16戦15勝を記録した。唯一負けたのが、このイタリアGP。
◆当然のように、予選はマクラーレン・ホンダが1-2。ライバルだったフェラーリは、ゲルハルト・ベルガーとミケーレ・アルボレートが3-4位に着け、レースもその通りに進んだでいたが、プロストがエンジンのトラブルで鮮烈を去り、セナがトップ、フェラーリが2-3位で51周レースの50周目に入った。
◆ヨタヨタと走るウィリアムズ。エースのナイジェル・マンセルが水疱瘡で欠席し、その代役に抜擢されたジャン・ルイ・シュレッサーのウィリアムズに、アイルトン・セナのマクラーレン・ホンダが接触したのは1コーナー。見ていた私の目の前だった。
◆場内は一瞬、静まり返り、たぶん、1秒後に、絶叫がサーキットを包んだ。フェラーリが1-2になったことを観客が認識したからだ。1秒ほど静寂があったのは、フェラーリの2-3位で有頂天になっていた観客が、それ以上の状況を理解できなかったからではないかと思えた。
◆興奮の極致で、金網を乗り越えてくるファンの群れに押し流されるように表彰台に向かった。そこで観た光景は一生忘れない。
◆表彰台の1-2に乗った赤いレーシングスーツ。反対側のガードレールの上から見ていると、押し寄せた観客が、まるで神に触れたいと思っているように、両手を表彰台の二人の方に伸ばしていた。観客の両手が作る矢印の中央に、ベルガーとアルボレートがいた。
◆その光景を見て、“これがグランプリか”とつぶやいた瞬間、涙があふれて止まらなかった。
◆ちなみに、優勝したベルガーのゼッケンは28だったが、その日は、フェラーリの創始者であるエンツォ・フェラーリが亡くなって28日目だった。
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