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手に“似非”握る?!–オーストリアGPに用意された“筋書き”

泣きながらシャンパンをフェルスタッペンにかける田辺TD。

◆ホンダが13年ぶりに優勝した2019F1GP第9戦オーストリアGPは、稀に観る面白いレースだった。◆もちろん、日本のホンダが勝ったという事実も大きいが、オーストリアGPは、日本のファンに限らず、ホンダ・ファンのみならず、さらにはF1ファンを超えた面白さがあった。◆終盤の、フェルスタッペン+レッドブル・ホンダとルクレール+フェラーリのギリギリの闘いは、レッドブル・リンクがリスキーな高速コースだったことで緊迫感を加速した。◆いつもならさっさと1-2体制を固めるメルセデスを苦しめるオーバーヒートの問題もドラマを面白くする筋書きを創った。フェラーリの先輩セバスチャン・フェッテルの終盤のレースも見応えがあった。マクラーレンのランド・ノリスとカルロス・サインツの好走も“演目”のひとつとして目を引いた。◆筋書きといえば、予選2位のフェルスタッペン+レッドブル・ホンダがスタートで大きく後退し、そこから追い上げるという、まるで仕組んだような展開。フェルスタッペン+レッドブル・ホンダがスタートに失敗しなければ、レースはあそこまで面白くならなかったはずだ。◆そして最後は、表彰台に初めて登ったホンダF1レーシングの田辺豊治テクニカルディレクターのパフォーマンスの素晴らしさ。表彰台と、それを見上げるホンダとレッドブルのスタッフが一体になり、さらには、ホンダのさくら研究所とUK基地を中心に、ホンダ全員と周辺の我々までをひつにする素晴しいパフォーマンスに、世界が感動した。田辺TDは泣きながらフェルスタッペンにシャンパンを浴びせかけていた。◆そこがオーストリアで、つまりはゲルハルト・ベルガーの母国。1980年終盤のホンダパワー全盛期に、マクラーレン・ホンダでドライバーとエンジニアの関係にあったのは、田辺TDとベルガーだった。ベルガーが表彰台でがっちりと田辺TDをハグし、田辺TDにスイッチを入れた。◆そして、オーストリアが生んだF1の偉大な星、ニキ・ラウダ逝去後の初めてのオーストリアGP。お膳立てが総て整った2019年オーストリアGPでホンダは勝った。◆理解しやすさが万人に共通して好まれる。面倒な理屈ではない分かりやすさは誰でも好きだ。しかし、そうではないこともある。オーストリアGPはその好例、いかにもF1らしいレースだった。◆F1らしい、というのは、面白さを演出するために分かりやすくするルールを創らない、ということだ。いや、昔に比べれば、特にバーニー・エクレストンから近代的な(?)リバティメディアに主導権が移ってから、随分スケールダウンしてはいるが、勝ったら重量を積むとか、ハンディキャップが課せられてより多くの参加者に勝利の権利があるように工夫するとか、分かりやすさを演出する車両規則がF1には存在しない。◆結果、何が起きるかと言えば、オーストリアGPのような手に汗握るレースにはそうそうお目にかかれず、たいていは退屈な展開になる。創られていないから当然だ。◆本来、F1レースは、ブルジョアが金を出してクルマを作って闘った身内の競技であり、観る方の都合などこれっぽっちも考えられずにスタートしている。だが、金にあかしてテクノロジーを注ぎ込んだ闘いは、時々とんでもなく面白くなる。それが2019年オーストリアGPだった。◆こんなレースはめったにない。そのめったにないレースを観るために、じっと待ち続けて深夜に眠い目をこすりながらテレビを観ていると、10年に一度くらい、あ~、起きててよかった!!と思えるご褒美がもらえる。いつも面白く創られたレースでは、この感動は味わえない。◆手に汗握るレースが観たい。手に“似非”握るレースは、どうぞ、ご自由に。

[STINGER]山口正己
photo by Honda

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