ハミルトンのご立腹
◆昨日、興奮覚やらぬまま徹夜の勢いで、『よっぽど嬉しかったんだろうなぁ』というシャルル・ルクレールを讃える記事を書いたが、数時間寝たら、別の考えがあることに気がついた。ハミルトンは、ルクレールのやり方にいたくご立腹だった。
◆シャルル・ルクレールは、GP2時代から、“果敢”なレースをすることで知られていた。一昨年のGP2最終戦、2位を走っていたシャルル・ルクレールが、トップのアレキサンダー・アルボンに追いつき、ヘアピンでインを強襲した。まさに強襲、分かりやすく表現すると、ぶつけて抜いたのだ。しかし、驚いたのはそこではなかった。
◆トップでゴールしたルクレールは、多少なりとも、“ぶつけて抜いたこと”をトボケるとか、知らんふりするとか、何らかの反応を見せるかと思ったが、表彰台で、まったく何事もなかったような態度だった。それを見て、シャルル・ルクレールという19歳の若者の闘いの遺伝子が見えた気がして、こいつは違うと思っていた。
◆凄い奴が出てきたな、というのがその時の感想だった。そのイメージがあったので、イタリアGPでの動きに対して黒白旗が出され、“審議対象”となっていることをチーム無線で聞いたルクレールが、「なんで??」とチームに返信したのを見て、いかにもルクレールらしいと思ったものだ。2年前と同じく、トボケているのではなく、心底そう思っている答え方だった。
◆一方、ルイス・ハミルトンも常人にはない遺伝子の持ち主だ。別の形の闘いの遺伝子を持っているハミルトンは、ルクレールの遺伝子が、自分とは微妙に違うことをイタリアGPで察知し、こうコメントした。“分かった、やり方が分かったので、次を楽しみにしておいてよ”。
◆公式のメルセデスのリリースでは、「シャルル、おめでとう、特に、バルテリとボクがかけたプレッシャーを考えると、今日は素晴らしい仕事をしたと思う」と大人のコメントを届けて余裕を見せた。しかし、内心はどうやらそうではなさそうだった。
◆ハミルトンのお返し(仕返し?)として、何を考えているのか。F1は、想像力を逞しくすると、興味深く観戦できる。本来必要なのは、事実に基づく情報だけれど、時には、勝手な思い込みも、事実以上に興味を倍増させることもある。
photo by MERCEDES