F1/モータースポーツ深堀サイト:山口正己責任編集

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	F1で巡りあった世界の空。山口正己ブログ

神たちの闘い

「この頃から父に、“絶対に諦めてはいけない”と言われていました」。6度目のタイトルを決めた直後のハミルトンの一言。

◆モンスターの異名を持つ井上尚也vs5階級王者ノニト・ドネア戦は、本当に凄かった。ボクシング回に留まらず歴史的な名勝負となった12ラウンドの壮絶な闘いだったが、12ラウンドは長すぎるという声が聞かれるという。グルグル回っているだけで面白くない、というF1と同じなんだと、なんだか親近感が沸いた。

◆そういう流れの中で、闘いを振り返ったボクシング関係者の、「今回は誰も長いと思わなかったんじゃないでしょうか」というコメントを聞いて羨ましくなった。特に今回の世界一決定戦は、誰が見てもいい試合だったと思ったからだ。レースでは、もう少し深い知識がないと凄さが伝わらない。

◆しかし、井上vsドネア戦も、深く知ると面白さは格段に大きくなることが分かった。試合後に井上尚也で検索した情報の中に、興味深い振り返りがいくつかあったが、中でも、琴線にビンビンきたのが、上のコメントをYouTubeで伝えたリブートイバジムの射場さんのコメントだった。よく観察すれば、さらに面白くなるのは自動車レースも同じだが、ボクシングを深く知らな門外漢にも、射場さんのコメントにはピンとくる唸る視点がいくつもあった。

◆例えば、井上が2ラウンドでフックをもらって血を流した場面のドネアのあの一発には布石があったという。ドネアは、1ラウンドから小刻みに井上のボディにフックを放っていた。2ラウンドのあの一発の直前にも。井上はそのフックを防御するために右腕が僅かに下がり、顔面の防御がかすかに手薄になる。ドネアはその瞬間を見逃さなかった。モンスターと呼ばれる井上をして、そうさせたドネアという男の凄さがよく分かった。

◆逆に、11ラウンドにダウンを奪った井上の一発は、最も効くけれどそこに入れるのが非常に難しい肝臓に入った。人間の腕はよくできていて、普通に構えただけで肘が肝臓を護る形になり、有効打を入れるのは単ではないからだ。井上は、顔面を狙うパンチを繰り出してドネアのガードが上がるのを誘っていたのだ。

◆しかし、下手に出るとカウンターを食らってしまう。強いパンチには、その強さの分だけ強烈なカウンターパンチをもらうリスクがある。だからお互いが牽制し合いつつ闘っている。そういうことが分かっていてこの試合を観たら、面白さ倍増だっただろう。そうした状況の中で、お互いが、作戦を立てて相手を誘導して確実に有効打を繰り出した。極めて高度な、神と言っていい領域にいる井上尚弥とノニト・ドネアの闘いだったことが理解できた。

◆さて、ハミルトンは、アメリカGPで予選で5位に沈んだが、タイトルを取ることを考えれば、その位置で充分。ペースを落としたとしても、チームメイトのバルテリ・ボッタスが優勝しても8位に入れば6度目のタイトルを決められた。だがハミルトンはその道を選ばず、優勝してタイトルを決めるというリスキーな道を、まったく迷いなく選んでいた。まさに神の領域だったのだ。

◆しかしF1では、目から血を流すような、大変さが外から見えない。アメリカGPのルイス・ハミルトンがいかに凄かったかは、よほどレースを見慣れて機微を知っていないとわからなかったと思った。

◆このあたりの詳細は、11月26日発売の『CARTOP』誌を見ていただくとして、ボクシングもF1も、知れば知るほど面白くなることが再認識できた。

◆今週末は、21戦中20戦目のブラジルGP。今度はどんなドラマが待っているだろうか。神たちの闘いの前に、髪たちの闘いが気になる時差ぼけの頭でも、週末が楽しみだ。

すでに素質が見えていた。

photo by MERCEDES

 

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