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	F1で巡りあった世界の空。山口正己ブログ

アルボンの悲劇とガスリーの“いまここ”

◆ブラジルGPの最後の10周は、自動車レースで起きるすべてが総動員した凄まじさだった。喜びもあった一方で、愕然と肩を落とす場面もあった。

◆最も嬉しかったのは、ピエール・ガスリー、最も悲しかったのはアレキサンダー・アルボン。この二人は、8月にレッドブルが交代を伝えて、レッドブルとトロロッソのシートを交換した間柄だったというストーリーも物語のバックボーンとして重要な役目を担っていた。

◆さて、アルボンは、2位のハミルトン+メルセデスを追って、一度はDRS圏内に入るが前に出られなかった。だが、フェラーリの同士討ちで出たセフティカーでレッドブル・ホンダが1-2体制になった。そのタイミングでハミルトン+メルセデスがピットインして新しいタイヤを履いて4位でコースに戻り、猛烈な勢いでアルボン+レッドブル・ホンダに追いついた。だが、アルボンは譲らず、ハミルトンが「自分のミス」で追突。アルボンの初表彰台は消滅した。

◆結果、混戦を乗り越えたピエール・ガスリーが、ハミルトンの猛攻を凌ぎきって2位表彰台。歓喜の雄叫びを絶叫した。

◆シート降格の辛さを乗り越えたピエール・ガスリー。その辛さが伝わる喜びようだったけれど、ひとつ気になることがある。

◆ちょっと古い話になるけれど、瀬古利彦というマラソン選手がいた。現在は、日本陸上競技連盟の強化委員会マラソン強化戦略プロジェクトリーダーとして活躍している。「ラスト400mでは世界に敵なし」と言われたラストパートが売りだった。その瀬古の現役時代、中村清という名コーチについていた。中村コーチの教えのひとつに、“頂点はオリンピック、それ以外では勝つな”という訓示があったという。その理由が面白い。

◆人は、勝つと誰でも嬉しい。しかし、喜ぶと、勝利へのモチベーションが減退する。だから、喜んではいけない、というものだ。それを聞いてから、道半ばのドライバーが喜ぶのを見るたびに気になる。

◆ピエール、君の歴史は、まだここだよ。

illustration & comment by Hiroaki Okazaki

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