F1/モータースポーツ深堀サイト:山口正己責任編集

F1/モータースポーツ深堀サイト:山口正己責任編集 F1 STINGER 【スティンガー】  > F1に燃え、ゴルフに泣く日々。 >  >     トヨタからは感じられなかったプジョーとシボレーの“先進”気質

	F1で巡りあった世界の空。山口正己ブログ

トヨタからは感じられなかったプジョーとシボレーの“先進”気質

◆100周年記念のルマン24時間。8トヨタの2位はとても残念だった。24時間走って数秒の差とは、とお嘆きのムキも多い。同感だ。けれど、カラーリングにしても、参加のスタンスからしてトヨタはスタート前から負けていた気がする。

◆後々振り返った時に、プジョーやフェラーリやポルシェのカラーリングは“100周年記念”というフレーズで即座に思い出すことができるはずだけれど、ガズー・カラーのトヨタは、よほどのマニアでない限り、即答できないと思う。結果として、百周年というフレーズに対する想いを、海外のメーカーのように感じられなかった。

◆プジョーはリヤウウィングがないという新たなジャンルに挑戦した。ポルシェも、大成功した956を彷彿とさせる若干古目のデザインではあったけれど、過去の実績をカラーリングで表現し、100周年記念への敬意を伝えていた。フェラーリも50年ぶりの参戦を大会にプレゼントした。

◆アメリカのシボレーもそうだった。図体がでかく、全面投影面積が超高速のルマンには不向きと取れるカマロでの参戦に大いなるチャレンジを感じた。

◆チャレンジは、貢献というスタンスとも解釈できる。ルマンは1923年に始まったが、当初、切れないランプやパンクしないタイヤの発達に貢献した。プジョーもシボレーも、そしてポルシェも、もちろんフェラーリも、その“役目”を深く理解して100周年の記念大会に臨んだ。トヨタにそこに対する強い想いを感じられなかったのは私がヒネているからだろうか。

◆最近の常套用語に“AI”という言葉がある。こと演算という意味で、人間はAIには圧倒的に適わない。トヨタのAIは、完璧であることは想像に難くないけれど、AIが万能かといえばそうでもない。特に、先が見えず、天候やライバルの動きなどの外的要素やハプニングは、AIの不得意な分野だ。

◆AIの集大成といえる現在のF1マシンの設計の進め方を見ても、例えば最先端を行くレッドブルのアドリアン・ニューウェイは、いまでも製図板で仕上げを行なう。途中で必要な演算はAIが得意な部下に任せ、最後の“面取り”のような作業を製図板で行なっている。大切なのは、“最後の面取り”だ。この最終仕上げができているかどうかが勝敗の別れ道と言っても言い過ぎではないと思う。

◆ニューウェイのことと同じく以前も書いたことがあるが、1970年辺りに一世を風靡したコンストラクターのローラ社のエリック・ブロードレイ代表は、いわゆるわら半紙にササッとアウトラインを書いてファブリケーターに渡したそうだ。デザイン思想はそれで十分に伝わる。そのスケッチを職人が必要な形に落とし込む。その作業を行なう職人は、製品に関する全方位の知識があり、熱対策や軽量化、重量バランスなどの問題をクリアーしてパーツを創っで優れたマシンが完成した。

◆外野は後付けで勝手なことを言えるのでなんともだけれど、恐縮しつつトヨタの敗因はそこにあったのではないかと思う。もちろん、レースは運がないと勝てない。しかし、今回の結果は、フェラーリが単に運がよかっただけではなかったと思う。

◆今年の無念を教訓にして来年こそ、という。これも同感だけれど、その教訓がAIでは届かないところにあることに気付くことこそ、“ライバルがいても勝てるトヨタ”を実現するための唯一の道だと思う。

[STINGER]山口正己
Photo by GAZOO RACING

記事が役に立ったなと思ったらシェアを!

PARTNER
[協賛・協力企業]

  • CLOVER