STINGER試乗会・その2『ホンダCRZ(CVT)』3/3
(2/3からつづく)
性能的には申し分ない。しかし、調整はしてほしい。
◆点灯する鍵穴
その昔、友人が乗っていた車は、鍵穴にカギを近づけるとライトが付くシステムだった。暗闇でも、鍵穴が見える、とっても便利なものである。2年間そのクルマを使った友人は、あることに気がついた。
2年間も使えば、たいていのものは状況に慣れて、違和感なく使えるようになる。しかし、いつまでたっても、鍵穴にライトが灯るそのクルマにキーを差し込むときに、鍵穴を覗き込まなければならなかった。ライトが点いて場所を示してくれることで、その場所を見る行為が必須になってしまって、”慣れ”によって鍵穴を捜し当てるカンが成長しなかったからだ。
ブレーキは、自らの踏力コントロールできちんと停めたい。ポンと踏んで、一定の踏力を守ったまま、停止線に止まりたい。しかし、ある程度のスピードになれば問題ないけれど、CRZのブレーキは、ゴルフのそれと同じか、もっと効きすぎた。常用する低速域での”効きすぎ”で、こちらの踏力に”訓練”をさせてくれず、これでもしパニックブレーキを踏まなければならなくなったときに、正確な踏力でブレーキを踏む自信をなくされてしまう気がした。
低速でのブレーキ踏力の”要らなさ”。適当にちょこっと踏んでいれば停まってくれる。一見優れものに見えるが、そうした”装置”は、運転を漫然とさせると思う。漫然と、つまり、ボーっとした運転にさせる。スポーツカーなのに。
だから緊張感がなければいけない、というのではない。節度が必要なのに、軽すぎて節度がなさすぎるのだ。スポーツカーなのに。
もしかすると、ハイヒールを履いた女性でも軽く踏んで停まれるよう考えたのだろうか。しかし、スポーツカーなら、スニーカー限定とはいわないまでも、軽快な靴に履き替えてほしいし、ハイヒールにサービスは要らないのではなくて、感覚を鈍らせない、という安全の見地からも、やっちゃいけないと思う。ドアポケット辺りに、ハイヒールに履き替える靴を収納できるスペースがあったりしたら、とってもホンダらしいと思う。
ブレーキとまったく関係ないけど、これは特筆モノ。ステアリングコラム右端の、「SPORT」「NOMAL」「ECO」の切り替えボタン。「エコ」で走行中に、「SPORT」をオンにすると、瞬時に切り変わって、パドルシフトより使い勝手がいいと思った。走行車線から加速して追い越し車線に移る時などの有効打。若干イレギュラーな使い方だが、これは楽しい。
◆スポーツしたい
オーバーヒートに見舞われて、代車を拝借した。シガライターさえ着いていない軽自動車だった。最初に乗り込んで動かそうとしたが、ギヤがちっとも入らなかった。ゴキゴキしてやっとバックギヤを捜し当てて、バックしようとしてエンストした。回転が合わせられず、低速トルクがないローパワーと、クラッチのつながりをつかめなかったからだ。
前進しようとしてクラッチをつないだら、ダダダダッとジャダーを起こして、スムーズにつながらなかった。すべては、剛性のなさによるものだった。しかし、翌日、返却するまでの約2時間の運転で、剛性が少なくて、ローパワーなその軽自動車がいとおしくなって返したくなくなった。
ボディがねじれ、ブッシュが弱々しくタワみ、ローギヤをつなぐときにジャダーを起こすクラッチは、ミートの瞬間、クラッチの戻し具合とアクセルの踏み込み加減を調整することでいなし方が分かった。そもそも、重量が軽いから(そのクルマは余計な装置が着いていないだけ余計に軽かった)、動くことに対して質素な軽自動車は有利である。ブレーキも、踏んだだけ停まるイメージで、クルマの状況がわかってしまえば、違和感なく操作できた。つまり、素晴らしいスポーツができたのだ。スポーツカーでもないのに。
(オマケに続く)