F1/モータースポーツ深堀サイト:山口正己責任編集

F1/モータースポーツ深堀サイト:山口正己責任編集 F1 STINGER 【スティンガー】  > F1に燃え、ゴルフに泣く日々。 >  >     驚愕の噂話—その4

	F1で巡りあった世界の空。山口正己ブログ

驚愕の噂話—その4

驚愕の噂その3からつづく)

◆どこかに書いた話なので、読んでる方はあしからず、ということで。「トヨタは、みなさんが思っているようなカタブツではなく、エネルギーを持ってます」、と伝えたくて始めたはずのトヨタF1の最初のシェイクダウンでたまげる現実があった。オレは、ゴミしか出ない財布をはたいて、2002年1月、バルセロナにトヨタF1のシェイクダウンテストを見物に行った。シェイクダウンテストとは、文字通り、トラブルを揺すって落す、という意味で、初期トラブルを洗い出すのが目的だ。

◆”初めて”という場所に立ち会うのが好き、という理由もあったが、いよいよあの(お固くて面白くないあの)トヨタが、F1の乗り出した。これは、トヨタが”クルマ”をチャンと理解した証拠であり、もしかすると、一般紙誌テレビラジオがあらゆる意味で巨大企業であるトヨタの動きなので無視できなくなってモーターレーシングをまっとうに認識し、ひいては日本のモータリゼーションが理解される日がそう遠くなく来るかもしれない。その記念すべき第一歩、と思ったからだ。しかし、驚いた。

◆シェイクダウンテストというのは、コンピュータによるシミュレーション技術の進化で今では違う解釈になってはいるけれど、当時はたいてい、突然止まっちゃって何事かと思ったらガソリンを入れ忘れていたとか、そうしたポカミスもあったりするものだった。いや、そういうトラブルはあっちゃいけないのだが、通常”初めて”というのはそういうものだ。しかし、トヨタF1のシェイクダウンテストは、まさに何事もなく終わった。

◆トラブルがあるべきで、それがないからおかしい、と言っているのではない。それまで、あちこちでシェイクダウンに立ち会って感じた、ある種の緊迫感のようなものを、トヨタF1はまったく感じさせてくれなかったのだ。だが、それも当然だった。なんと「前日にポールリカールで走って準備してきました」だと!! 準備万端!? ふざけるな!!

◆シェイクダウンと思ってノコノコやってきたオレは、予行演習を済ませた似非シェイクダウンを拝みに飛行機代とホテル代を払ったマヌケになった。金返せ!!(笑)。

◆まぁ、それじたいは、佐藤琢磨の初試走の日でもあったので許すとして、ここで気付いたのは、トヨタはまるで分かっていない、ということだった。F1に参戦したのは、「エネルギーも持ち合わせていることを証明したいから」ではなかったのか。

◆前の日に準備して、失敗のないシェイクダウン。やってる連中が”イメージされているトヨタ”の枠から抜け出せていないことが証明された。そして、それはそのまま、そのことを手玉にとって泡銭を頂戴しようとする連中の餌食になっていることが手に取るように見えた。

100915_toyota-1.jpg


発表会の初代トヨタF1。そつなくまとめてご機嫌伺いのマシン。そういえば、アラン・マクニッシュとミカ・サロというドライバー・ラインナップも、そつなさだけが印象的。誰かが言った。トヨタ・モータースポーツ有限会社の略称TMGは、「とりあえず・マクニッシュで・ゴメンナサイ」の略だと。

◆ベースに流れるのは”そつなくこなして上司のご機嫌伺い”の思考回路である。そういや、デザイナーとして青息吐息のミナルディから引き抜いたのが、グスタフ・ブルナーという時代遅れの人材だったところからして、「F1」が分かっていなかった。確かにブルナーは、理論上一番強いはずの”丸いカーボンシャシー”を発案し、フェラーリにも在籍した辣腕。だが、すでに余生を過ごす時代に入ったロートルだった。そこに白羽の矢が当たったら、ビックリするような、つまりF1で通用するようなデザインをするわけがない。ここでもしっかり、手堅くこなしてご機嫌伺い。ブルナーが創ったトヨタ最初のF1は、GP2レベルのクルマだった。

◆要するに、ハナからチャレンジングなF1スピリットがトヨタF1にはなく、まさに、時には冒険もするマインドを持つ会社であることを証明するために存在したはずだったトヨタF1計画は、「ちゃんとした会社」であるという実にトヨタらしさを証明しながら活動をスタートしたのだ。

◆つまり、最初から、ボタンを掛け違えていた。それも、上着のボタンをシャツの袖口にとめようとしたくらいの大きなズレを持っていたのだ。

◆そうして去年辞めるときには、自分からかけた梯子を知らん顔して外しておいて、「中嶋(一貴)君と小林(可夢偉)君の将来が心配だ」と涙を流した取締役を見て、情けなくて泣きたくなった。いけしゃぁしゃぁとはこのことだ。自分の保身のためならなんでも切っちまえ。富士スピードウェイ買収の”噂”を聞いたとき、そういう運命にあるのではないかと、との思いが脳裏を過った。

◆ツイッターに書いた「復興の気持ちなし」は、単なる噂かもしれない。後日、富士swの関係者から、おかしなことを言わないでください、と丁重な電話をいただいた。しかし、これまでのトヨタの似非レーシングスタイルに触れた身にとって、あまりにピタリと符合しすぎる。できれば私の思い違いであってほしい。なぜなら、F1がそうであるように、トヨタが放棄した瞬間に、浅薄な知識しかなくモーターレーシングを誤解しているマスコミを中心に、モーターレーシングが”無駄なもの”というレッテルがますます強固に貼りついてしまうからだ。それはそのまま、クルマ不要論に広がって、トヨタが自らクビを締めることになってしまうので。  (完)  

・・・この項2011年2月9日及び2022年5月27日に一部修正。

記事が役に立ったなと思ったらシェアを!

PARTNER
[協賛・協力企業]

  • CLOVER