F1/モータースポーツ深堀サイト:山口正己責任編集

フォーミュラEは、プラス要因もたくさんある。 ミシュランやTAGホイヤー、アウディ、ヴァージン･グループなどのグローバル企業が、参加や協力を表明している他に、F1関連の、例えばマクラーレンやウィリアムズがテクニカルサポートしている”ある種未来的な”EVである。

FIAもそうそうにお墨付きを出して承認し、ジャン･トッド会長も、フォーミュラE代表のアレハンドロ･アガク代表と笑顔で調印。そのアガク代表は、信頼の篤い人物という評判もある。

しかし、一方で、マイナスの声もある。第一マシンがカッコ悪い。例えばそのマシンが、レッドブルX2010のような未来的な格好をしているとか、フォーミュラでありながらボディがフルカバーされて空気抵抗によるエネルギー損失を考慮しているとか、タイヤが3本しかないとか、ルマンに参戦するニッサンZEOD（←左の写真）のようでもいいが、とにかく驚く形をしていない。

それは、まずはスタートすることが大切で、将来に向けて進化させるのだ、というならそれも分かるが、問題は、来年9月に始まるというのに、参加チームがまだ既定の10チームに達していないことと、もっと怖いのは、市街地コースならサーキットを新たに造る必要はないけれど、ただでは設営できない、という事実である。

一説によにと、これは日本の特殊な例で、海外ではもっと安価にできる可能性は高いが、特設スタンドを作るために、”1席8000円”の費用がかかる、という情報もある。つまり、例えば5万人の仮設スタンドを作るのに、4億円かかるのだ。

さらに、コースを閉鎖するためのコンクリートウォールを、レース以外のときに他に転用利用できるならともかく、そうでない場合は、どこかに保管しなければならない。仮に3kmのコースを創ったとして、2m幅と想定して、そのコンクリートの固まりを片側で1500個、両サイド合計で3000個、どこかにしまっておかねばならない。1個1トンとして3000トン。移動だけで大変である。

以前、ロングビーチとラスベガスで2GPがあったとき、400km

の距離を運搬して、コンクリートウォールを共用、お互いにメリットを見いだしたという話があったが、そのノウハウは、例えば、オーストラリアGPのメルボルンや、シンガポールのマリナ･ベイなどから仕入れているのだろうか。

モナコも会場になっているじゃないか、という声もあるが、モナコの場合、カレンダーを見れば、オールドモナコや本番のF1モナコGPに備えて、準備が整う辺りの5月9日にスケジューリングされている。つまり、うまいこと流用できるのだ。

しかし、記念すべき開幕戦となるはずの北京の場合、まったくゼロから市街地コースを造らねばならない。中国共産党の力を甘く見るな、という意見に対しては、ご尤も、といいたいところだが、他にも、まったく知られていないウルグアイのプンタ･デル･エステという都市名もあって、不安が頭をもたげる。

日本の場合、モーターレーシングの理解の浅いD通が絡んでいるところからして、心配は加速する。いや，これはD通が悪いのではなく、日本におけるモーターレーシングの認知度の低さから、そうした下調べを完璧にした上で収支を考えると、まともなことはできない、という致し方ない思考回路が働く結果かもしれないが、いずれにしても、基幹産業が自動車である日本におけるモーターレーシングの文化的ポジションを、なんとか高めようという努力をしているようには見えない。

とはいえ、テレビ朝日から、F1に比べれば破格といえる独占放映権料を500万ユーロを捻出させて、FIAやFORMULA E HOLDINGSを安心させている、という点では、彼らなりの収穫はありとしているのかもしれないが、いずれにしても、初物好きの［STINGER］としては、是非とも開幕戦を見物にいきたいところだが、早く予約した方が安くて助かる飛行機のチケットやホテルなど、いまのところ怖くて動きを取れない状況である。

photo by FORMULA E HOLDINGS / NISSAN / ［STINGER］

［STINGER］山口正己