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	F1で巡りあった世界の空。山口正己ブログ

ギャンブルなのか作戦なのか

1993年にセナ伝説を創ったドニントン・パーク。

◆ドイツGPが中盤の40周をすぎるころに雨が降ってきた。雨はコースの一部で降っているだけだったが、ガスリー+トロロッソは、雨が強まることを想定して浅溝のインターミィディエイトではなく、大雨用のフルウェットを装着してコースに戻った。

◆結果的に、雨は強くならず、溝の深いタイヤがすぐにオーバーヒートして、ガスリー+トロロッソはコースオフを喫して大きく交代した。

◆トロロッソの行動を“ギャンブル”とか“賭”とか表現したくなったが、外れはしたけれど、この判断は正しかった。雨が降らなかっただけ。賭ではなく、正統な選択だったのだ。

◆ギャンブルや賭は、一か八かというイメージがあるが、トロロッソの判断は、一か八かのどちらかではなかった。フルウェットのタイヤを選ばずにレースを続けたとすると、ガスリーには、コースアウトしなくて済んだかもしれないが、入賞のチャンスはなかった。しかし、もし雨が強くなったら、上位入賞の可能性が出た。いずれ上位入賞は無理なら、上位進出の可能性を選ぶべき。だからトロロッソはそうしたのだ。

◆メルセデスやフェラーリはその作戦を取れない。それは、雨が降らないと、せっかくのレースを失うことになるからだ。上位入賞できるチームがフルウェットタイヤに交換したら、それはまさしくギャンブルになるけれど、下位チームの場合、起死回生のチャンスになる。この違いだ。

◆1993年にドニントン・パークで行なわれたヨーロッパGPの例が分かりやすい。アイルトン・セナが、最強だったウィリアムズ・ルノーのアラン・プロストに一矢報いたレースだ。

◆セナのドライビング能力が再認識させるレースとして語られているが、実は、セナのマシンは、激しい雨を想定したフルウェット・セッティングだった。

◆1993年のマクラーレンは、前年限りでホンダ・エンジンを失って、非力なDFVエンジンを搭載しており、晴れたら、ウィリアムズ・ルノーの宿敵アラン・プロストに太刀打ちできない。レース前の予測は、雨の確率50%だったが、セナは雨に賭け、その通りになった。

◆雨にかけることに迷いはなかった。ドライだった場合、もともと勝てないので、外れても後悔しなくて済む。雨が降って、セッティングがドライのままだったら、それこそ後悔することになる。だから迷わずレインセットにした。

◆反対に、ドライだったら勝てるウィリアムズは、その作戦は取れない。結果として、ウィリアムズのプロストは、ドライセットのままで、雨が降り始めたレースをスタートせざるを得なかった。セナが選んだのは、ギャンブルではなく周到な作戦だったのだ。

◆今回のドイツGPは、ゴール直後に激しい雨が降った。雨が1時間30分ほど早く降っていたら、伝説を創ったのはルイス・ハミルトンではなくピエール・ガスリーだったかもしれない。

◆レースは、こうした駆け引きを勝手に想像しながら見物するのが楽しい。

illustration by DoningtonPark

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