見えない回線
◆海外の取材で最も苦労するのは、通信回線の問題だ。実はこのテーマはホンダが第一期F1に挑戦した1960年代から日本のF1に付いて回っている。ただし、今はパソコン通信、当時は電話の話だが、通信に変わりはないからいいのだ。
◆第一期ホンダF1時代に監督だった故中村良夫さんや、車体責任者だった佐野彰一教授(本田を定年後、大学教授になられた)、第二期初期の監督だった土師守さんから、第一期時代の苦労話をいくつも伺った。当時の電話は、電話局や郵便局など、電話機が設置されている場所に行く必要があった。本田陣営が滞在する木賃宿(中村良夫さんの表現だが、昔はどのチームもそれが当然だった=そうでなくしてくれたのがバーニー・エクレストン)に電話などないからだ。
◆そして、「つながるかどうか分からない電話が通じるのを何時間も待った」のだそうだ。したがって、散々待った挙句につながらないこともあって愕然とすることもしばしばだったという。今ははるかに便利になってそんなことはないのだが、問題は”はるかに便利になっていること”だ。便利さの水準が高くなり、それが当然になる。不便なままなら諦めもつくが、便利さで免疫力が弱体し、サクサク進んでいるものがちょっとでも滞ると、一気にパニックに襲われる。そして、よくしたもので(よくない!!)、そういう事態は忙しい時に限って起きるのである。
◆ということで、1960年代と同じ気分になって、メルボルンの回線状況の悪さを、昔日を偲びつつ、楽しんでいる(楽しくないってば!!)。
【STINGER / Yamaguchi Masami】