最高のお仕事
◆風邪で体調最悪だったが、[STINGER-magazine]の打合せの曙橋でゼイゼイ言ってる(でもないか)ところに携帯電話が鳴った。いつもよりけたたましい音にビクッとして出てみれば、T社のモータースポーツ推進室のKさんから、「本日17時から」とぜんぜん推進ではないお報せだった。”全部おやめになるのですか? それとも?”、「その辺りも17時から」。答えがさすが優等生のトヨタであった(笑)。
◆いきなりなので、デザイン事務所でボイスレコーダーを拝借して、水道橋からの方が近いが、時間があるので飯田橋から遠回りして歩きながらイギリスの某F1チーム関係者に電話。「経済効果がって言ってるけど、ちゃんと効果を上げているスポンサーもいることなんだから、要するに金の使い方う間違ってたってことじゃないの?」。なるほど。そう質問しようと思ったが、言っても分からないだろうから質問はしなかった。
◆会見で印象的だったことがふたつ。司会者がまるでNHKのアナウンサーが他人の事件を報じているような終始一定のトーンで、思わず”プロ”を感じたことと、山科さんが一貴と可夢偉の将来について触れたところで言葉に詰まったことだった。涙声で、「どこかに乗せてあげたい」と山科さんは仰ったが、泣きたいのはこっちだって。意地悪なオレは、素晴らしいサラリーマンと思った。隣の社長は、こんなところで泣いてくれる家臣を持ってよかったと思っただろう。早速当日のテレビ朝日は涙を拭う山科代表を紹介した。明日の新聞は、ほとんどこの写真だと理解できた。
◆いや、山科さんの涙が嘘泣きとは思わない。万感胸に迫った、というのは正しい見方のはすだ。しかし、その山科さんに、ベルギーGPの辺りから、なんとなく”心ここにあらず”を感じていたのはオレだけか? 船が沈没するのを分かって近づかないようにしているご様子と言えばいいだろうか。最終戦のアブダビGPの決勝を17時に控え、我々日本人プレスを招いていただいた11時からのトヨタの昼食会のあいさつでも、F1に対する他人行儀というか無関係なご様子がチラリと見えていた。どこに見えたって? どこだか分からない。けれど、30年間F1見ているオレがいうんだから、間違いない(ような気がする・・・なんてね)。
◆いや、山科さんは悪くない。日本のサラリーマン社会構造、いやそれ自体も悪くない。じゃ、何が悪いかといえば、責任者がいないこと? 逆に言えば、山科さんは、サラリーマンとして徹底して立派な態度だったといっていい。オレにはもちろん、そんじょそこらの平民にはできない態度だ。サラリーマン社会を生き抜く、という意味で、最高の仕事をしたのだと思う。残念ながら、そのやり方はF1には通用しない、というか、外には見せられない日本独自の生存方法だ、というだけの話だ。
最終戦の後、アブダビ空港で。誰が作り笑いか。そして、今でも笑っているのは、向かって左端の山科さんだけ?
◆しかし、文句をいうのではなくて、どういうことになっているのか、トヨタの上層部の方々に知っていただきたいと心から思う。山科さんが日本に戻って、現場の状況をしっかり伝えられるようになったと思ったが、山科さん一人では足らなかったようなので、お手伝いしたいと思う。余計なお世話でゴメンナサイだが。