恐怖のアエロバティック
頭の上にはもてぎの町が写っている。パイロットは余裕で””ピース”。
H社広報部のTちゃんが、やおら「ところで」と問いかけてきた。「な、なんです?」とどきまぎする私。「山口さんて、飛行機乗ります?」。海外取材のお誘いかと思った。「え、まぁ、乗らんこともないですが。ヒヒヒ」。この下品な笑いが浅ましさの証明。浅ましい奴にはバチが当たることになっている。
飛行機に違いはないが、もてぎで毎年開催されている曲芸飛行のエアロバティックのことだった。「そ、そんなの、ダメダメッ!!」。しかし、一度返事をしてしまっている。手遅れであった。
操縦士の前に乗る。何でも、「ゲストの様子を見ながら」だと。気を失っちゃったり、危うい状況になるってことじゃんか!! 助けてぇ!!
スホイだかヨサコイだかしらんけれど、ソ連製の超軽量で座席の足元から地面が透けて見える小型機は、私の絶叫をまったく無視してサクッと上空に飛び上がり、クルッと宙返り。ギャ~っと気絶寸前でそれでも必死でシャッターを切った恐怖に引きつる私の後方で、パイロットがにっこりピースだもの。着陸した後に操縦士のおっさんは言った。「今の宙返りがアルファベットのエルだったとしたら、競技の時はカンマです」。世の中には、間違いなくオレより頭のおかしい人間が存在することがこれで分かった。