敏感な者
◆章男社長が古館伊知郎さんのテレビ番組に出演していた。クルマは、各国で味が違うという話を「分かりやすい例で」ということで、中華料理を例に挙げて説明した。全然分かりやすくなかった。
◆曰く、「国によって同じ麻婆豆腐でも味付けが違う。日本の道、アメリカの道、ヨーロッパの道、砂漠の道、それぞれ違う。だからクルマの味付けを変えなければならない」というようなことだったが、前にもどこかでまったく同じことを言っていたからだけでなく、ちょっと違う気がした。
◆世界中どこに行っても、美味しい料理が美味しい理由は、厳選された素材を使って腕の立つ料理人が作るからだ。どこで食っても美味いものは美味い。これは、500円のラーメンから、朝飯が100円で食えるマレーシアで連れて行っていただいた一人2万5千円するから日本で食ったら一人10万円コースの超高級中華料理でも同じだ。もちろん、暑いから塩気を多くとか、労働の後だから糖分を増やしてとかの違いはあるのだろうが、味付けを変えているから美味しいのではなくて、美味しいから美味しいのだ。社長の説明が分かり難かったもんだから、それを説明しようとしたらこっちまで分からなくなった(笑)。
◆「作っていくのは、我々や技術者ではなくてユーザーのみなさんです」というくだりも、耳障りがいいだけでピンと来なかった。「自分たちが欲しいものを自信を持って創りました。どうぞお楽しみください」の方がオレは好きだ。クラウンのデザイナーに、パチンコ店のデザインの話をしたことがある。”パチンコ店がハイソで素敵なイメージだったら、その店は流行らないかも。要するに、パチンコ店のあのギラギラしたデザインは、そうした客層がリラックスできる雰囲気を知っているデザイナーの作品と思います。それが”ニーズ”ということでしょうが、でもそれはそのデザイナーの好みじゃない。クルマのデザイナーも、そうしてニーズに合せたということで、つまりは自分のセンスと合わないものを作っていませんか?”。相手は、「いやぁ」と言って頭をかいた。
◆章男社長は、「安全、品質、そして数」という順番が少し狂ってしまったかもしれない」とも仰った。以前、トヨタの社訓の話をとある取締役から伺った。それは7つだかあって、「中でも重要なのは公害と安全」という言葉は、立派だが残念ながら素直に頷くわけにはいかなかった。なぜなら、それを最優先に掲げるなら、直ちにクルマを作るのを辞めなければならなくなるからだ。屁理屈だが間違っていないと思う。順番は、「まず、走って楽しいクルマありき」である。公害や安全に対しては、どうすんの? ここが自動車メーカーの誇りであり、義務である。「持ちうるテクノロジーの英知を尽くして全身全霊を注ぎ込んで対処する。楽しいクルマのためにトコトンチャレンジする」と言ってくれたら本物だと思える。
◆古館さんが最後にダーウィンの言葉をコメントした。「最後に生き残るものは、強い者でもなく、賢い者でもなく、敏感な者だ」。ところで、敏感なのって、誰? 機を見て敏な村上龍さん? それとも、パチンコ店のデザイナー? はたまた、トヨタのリコール騒ぎに便乗して票集めに走ったアメリカの議員さん? ドアの不具合を大々的にリコールと発表して、”うちは安全は大丈夫。品質を追求しいてます”と厚顔無恥に利用した風情の現代自動車? それとも、トヨタのF1撤退をいち早く察知して、難破船から逃れたお偉いさん?
◆全然関係ない話だが、久々に10年ほど前に作った『F1 Quality』を引っ張りだしてついつい読んだのは、1968年のホンダRA302の記事。ニッポンにも、こんな凄いクルマがあったなぁ。
前進したコクピット、ステアリングのボタン、そしてテレメーターによる開発。1960年代の日本は、超先進的だった。