文才
◆哀しい以前に残念。文才がひとつ消えた。
◆西山平夫の文才は、自動車業界では群を抜いていた。ボキャブラリーの豊富さと、いわゆる軽妙洒脱な言い回し。機会があったら、それを思い浮かべながら、平ちゃんの文章を読んで、改めて彼の素晴らしさに触れてほしい。
◆あふれる文才を、決してひけらかさないのも平ちャんらしかった。最後の取材となったトルコGPの空港からホテルの往復が一緒だった。トルコ語しか理解しないナビでの迷いまくりに、文句ひとつ言わずに付き合ってくれた。あきれてモノ言えなかった、という方が正解かもしれないが、そのせいだけでなく、もうひとつ元気とがないのが気になった。
◆次のカナダに来なかったので、”具合が悪いわけじゃないですよね”とメールしたら、「具合が悪いんです」というタイトルの返信が来た。本文には、「懐の」と一言だけ書いてあった。不況で大変だよなァ、という話をしたばかり、ということもあって、深く考えなかったが、今にして思えば、実に平ちゃんらしいオチのつけ方だったことになる。
◆8月に仕事を依頼したメールに、「ご依頼まことにありがたいのですが、現在、残念ながらお受けできません」という内容の返事があった。これもいま思えば、断るのは辛かったはずだ。知らずにお誘いして申し訳なかった。
◆原稿を断る、というのは、明確な理由がない限りやらない方がいいと思っている。平ちゃんも同じ気分だったのだと思う。原稿に限らず、「すべてのお誘い」というふうに置き換えてもいいかもしれない。例えばゴルフの誘いでもいい。一度断ると、次から誘いにくくなる。ましてや、仕事に関連するなら、断られる方のことを思うと、断らない方が楽。断らなければならない、という選択はできればしたくない。なのに、断った。どんなに辛かったかを思うと、心が痛む。
◆闘病生活がどんなものだったか、想像もつかないが、辛い闘いだったことが忍ばれる。文才があっただけに、いろいろな表現が脳裏を巡ったことだろう。いまはただ、安らかに、と祈るばかり。サヨナラ、平ちゃん。