F1/モータースポーツ深堀サイト:山口正己責任編集

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	F1で巡りあった世界の空。山口正己ブログ

イスタンブールのジャン

◆2005年に初開催だったトルコGPを訪れたときにことだった。トルコGPの後、いつもなら月曜日の便で日本に向かうのだが、火曜日の便しか取れず、月曜日に生まれて初めての”観光”を敢行。そこで、ジャンに会った。

◆15~19世紀のオスマン帝国の中心地だったトプカプ宮殿を見物した後に庭のテーブルでコーラを飲んで一休みしているところに登場した白いシャツを着た長身のトルコ人。眉間にシワを寄せてちょっと真面目そうな、おじさんというには若いけれど、お兄さんは褒めすぎな風情。

◆「どこからですか?」と非常に流暢な日本語だ。その内容がなかなか渋い。「私は田中耕一さんの通訳をしてました」。田中サンと言えば、ノーベル賞を受賞したばかりで、日本人なら誰でも知っている。「以前は島田製作所のお手伝いもしてました」。ソニーとかホンダではないところがミソである。押しつけがましさがなく、ついつい引き込まれる。

◆店が何千軒も集まっているグランバザールに行くというと、頼んでもないのにお土産の売れ筋ナンバー1のアップルティーやトルコのお菓子の値段、果てはスリ対応のバッグの持ち方まで、私が差し出した小さなノートに、細かい地図まで書いて流暢な日本語で教えてくれるのであった。

◆「お菓子は、これこれの大きさでいくらが相場。気をつけなければならないの、大きな箱だったとき」。”なぜ?”と訊くと、即座に「上げ底だから」という返事が返ってきた。特殊な日本語がポンポン飛び出す。どうしてそんなに親切にしてくれるんですか、と聞くと、「一期一会」。間髪入れないジャンである。

◆そういえば、トルコに来てからかなりの数のトルコ人に日本語で話しかけられた。一度は、道の向こうから、「お金、落ちちゃうよ!」と叫ばれた。腿の辺りに穴があいたストーン・ウォッシュのジーパンをはいていたからだ。「どこから来たの、江戸川ですか、私は葛飾に住んでました」。渋谷とか新宿とか、メジャーではない場所。「ちょうど再来週の水曜日にまた日本に戻ることになってます」。実に微妙な日程がホントっぽい。ジャンはその集大成といえた。

◆余りの親切の下心の在り処が見えずにちょっと引けたが、話は聞いておいて損はなさそうだ。美味しい昼飯と夕飯の場所を訪ねると、1時半まで少し時間があるので、案内しますと歩き始めた。強引さはないが、なにか断れないムード。

◆一昨日夕食を食べた辺り、ブルーモスクの下の街へ。ホテルのフロントを通り抜けてエレベーターで五階建ての屋上へジャンは上がっていく。後にアヤソフィアとブルーモスク、前にはマルマラ海。周囲が全部見える絶景である。夜になったらもっときれいだろうと感動して夕食を予約すると、ジャンの知り合いというホテルとレストランのオーナーが挨拶にやってきた。しばらくしたら、オーナーからです、とフルーツ盛り合わせが届く。もしボラれるんじゃないかと思ったが、請求は来なかった。

◆仲間3人とも気分を良くして、いざグランバザールと思いきや、もう一軒、絨毯の問屋を紹介するから、とジャンか言う。ここまでの流れの中で、強要したり、しつこく誘ったりは一切なしである。しかし、微妙に断れないムードだ。

◆「いつもは入れない」という奥の特別室に通されると、ジャンよりさらに日本語ぺらぺらの問屋のオニイサンが、「日本には大塚家具に卸しています」、と絨毯講座が始まった。なるほど、手織の質の違いが素人にもよく分かった。。

◆トルコの絨毯は、方向によって色が違って見えるんだそうだ。こっちからみると薄い色があっちから見ると濃く見える。それを演出するために、広い室内に絨毯を回して投げていく。1枚ずつ特徴を語りつ紹介していくが、20枚ほどになったところで、「きりがないので、いらないのを言ってください」という。いらないのをいうなら、買わされる心配もない、と思わせる作戦であることに後々気づく。

◆「これは日本ならお勧めですね」。”どうして?”。「こたつサイズ」。見事な回答と日本語である。

◆連れのT口君が”お袋に買っていきたいんだが”というと、「親孝行しなくちゃ」。T口君はコタツサイズをご母堂のお土産に購入。18万円は安くはないが、あとで大塚家具で調べたら50万円近くする品物だった。

◆昼飯を、ジャンご推薦の隣のレストランで食う。私がジャンのベストリコメンドであるアリナジック、他の2人が、チキンカレーとチキンカバプ。3つとも超ウマで大満足した。

◆ジャンに教わったトルコ風呂に入った後にグランバザールへ。名前の通り猛烈にでかいバザー会場みたいな店が並んでいる。雑多なトルコの名産品とパチモノの時計やスニーカー。トルコの縮図が垣間見えるなぁ、と感心していたら、なんと吉野前ホンダ社長とすれ違う。今日はいろんな人に会う日である。

◆仲間と別れて一端ホテルに戻って一眠り、と思ったが、昨日のインタビューのテープ起こしの後、2時間ほどで仲間に再会し、さきほど予約したホテルの屋上の夕食会場に向かった。夜景がこれまた絶景! お互い、相手が女じゃなくてご愁傷様とひとしきり笑った。夜景に劣らずカラマリもロブスターもシーバスも美味。久々に女房に食わせたかった。宝くじに当たったら、連れてきてあげることを決める。

◆果たして、ジャンは、絨毯屋やレストランからバックマージンをもらっているかも。とはいえ、解説がすべてまっとうだったことを思えば、それはそれでアリかもしれない。あのやり方なら、女を口説くのが上手いだろうな。すっかり騙されたのならそれもよし。イスタンブール最後の夜は、穏やかな気分で暮れたのだった。

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