クルマファンとして零戦の里帰りプロジェクトを応援したい理由
◆『唯一日本人所有の飛行可能な零戦を日本の空で飛ばしたい』という壮大なプロジェクトを推進する方にお会いした。興味は倍増した。お会いしたOさんの話が、飛行機や飛行に対する知識が濃密で、常に冷静でありながら、夢があふれていたからだ。
◆そもそも、なぜこのプロジェクトに興味を持ったのかといえば、終戦時点では、アメリカ軍の送りだした新鋭機を前にして非力になったものの、発表当時素晴らしいレベルにあってアメリカを慌てさせた零戦のテクノロジーが、敗戦の痛手を受けて一時頓挫した後に復活して、スバル360やホンダF1に継承されたはずだからだ。
◆戦時中に飛行機を作っていた技術者の多くが、戦後の自動車メーカーに流れている。スバル360の百瀬晋六さんしかり、ホンダF1の中村良夫さんしかりである。飛行機のテクノロジーは確実にクルマに継承されている。
◆過去に何度か零戦が日本の空を飛んでいるが、クルマと結びつきを見つけて零戦が飛べば、こんな夢想が膨らむ。
◆以前から、『グッドウッド・フェスティバルofスピード』の日本版ができたらいいと思っていた。ホンダ、ニッサン、トヨタ(ガズー)、マツダが別々にイベントを行なうのではなく、数年に一度でもいいから『日本モーターレーシング・フェスティバル』として合同で開催される夢である。その最終日に、やがて富士重工につながる中島飛行機が作った零戦が飛来したら、どんなに素晴らしいことかと思う。『グッドウッド・フェスティバルofスピード』では、スピットファイアを中心に、空と陸をつなぐアトラクションが当たり前出し物になっている。
◆零戦が日本の空を飛ぶことじたい、感動的なことだが、それだけではもったいない。零戦を初めとする飛行機のテクノロジーが、人々の役に立つ自動車に継承されたイメージを伝えるために、自動車工業界が応援してもいいくらいだと思ったのである。
◆とは言え見えない相手である。そこで時間をいただいた「零戦里帰りプロジェクト」のOさんに、無遠慮な疑問をぶつけた。結果として、さらに興味が加速した。すべて明確な回答だったからだ。
◆最初に伺ったのは、現在クラウドファウンディングで募集している2000万円では足らないのではないか、ということだったが、”まずは、飛べる状態にするのが第一段階”とのこと。アメリカにあった機体を日本に運ぶ際に、分解せざるを得ず、それを鹿児島に運んで再組み立てするだけで500万円ほどかかっていることや、保管している格納庫の代金、そして日本の航空法に照らすと難関続出で、そうした諸手続きにも労力と費用が必要、という考えれば当然の結論だった。ひとまず、飛べる形にするのが先決、そこにかかる費用が2000万円ということだ。そこからあとは、フェイズ2として別に考える、ということである。クラウドファウンディングに(READYFOR)と付けているのは、クラウドファウンデーションの名前だけでなく、そういう意味と解釈したい。
◆さらに気に入ったのは、『日本モーターレーシング・フェスティバル』の時に飛来するのは、零戦だけでは不十分ではないか、という意見である。零戦の他に、飛燕、隼、紫電改、雷電など優秀な飛行機がある。それも一緒だったらもっといいですね、と平然と仰る。さらに、グラマンやスピットファイアにも協力を要請できたら、と言われてジンと来た。企画を推進するメンバーの中には、アメリカに住む航空界に太い人脈を持つ方がいらして、可能性はきわめて高いのだそうだ。
◆単に零戦を飛ばしたいのではなく、技術の伝承として、という基盤が実に明解だった。こちらが期待した、飛行機からクルマへ、兵器から平和へのテクノロジーの伝承という点でも意見がピッタリ合致した。
◆11月に埼玉スーパーアリーナで行なった展示イベントに、一人でやってきた女子高校生がいたのだそうだ。ノスタルジーや懐古趣味ではなく、どうして興味を持ったのか尋ねたら、『永遠のゼロ』や、『紅の豚』などの影響でその時代に興味を持ったのだそうだ。早くもこのプロジェクトの成果が、ごくごくポツリとだけれど現れた明かしと思った。
◆しかし、もうひとつ心配があった。零戦の里帰りは、ややもすると戦争を想起させることから、反対の声が懸念されるのではないか、ということである。しかし驚いたことに、朝日新聞が、このプロジェクトを、時には全段ぶち抜きで積極的に紹介してくれている、というのである!!
◆勝手な解釈で否定的なはずの朝日がなぜと思ったのだが、実は飛行機に対して朝日新聞は寛大で、それは、ANAを作ったのが朝日新聞だから飛行機に対して非常に積極的、とのことだったのだ。ビックリである。
◆ついでに、ANAの便名がNHである理由もわかった。JALはJL、ならば、全日空はZNかANではないかと思うが、それはANAの前身であり、朝日新聞と関係の深かった”日本ヘリコプター”の略だった。航空ファンなら常識だろうが、詳しくない素人には新発見だった。
◆さらに、最も反対意見が懸念されそうな韓国のテレビなどのメディアが、戦争ではなく、Oさんたちが最も伝えたいと思っている『技術の伝承』をテーマに、このプロジェクトを紹介してくれているということも驚きだった。
◆現在、”まずは飛べる状態にする”ために、クラウドファンディング(READYFOR)として資金集めを行なっている。状況が見えにくいこともあって、資金集めに苦労しているということだが、まずは飛べる状態になるまでの手助けを、零戦への恩返しとして、少しでも多くのクルマ関係者ができればと思う。