マツダのコーナーが気持ちよかったのはなぜか
LMP1でのWECマシンもいい感じになりそうだし、これからの日本車のイメージ牽引役?
◆東京オートサロンを見物して、マツダのコーナーが一番マトモに見えた。いや、ホンダのF1のブースはかっこよかったし、モトGPチャンピオンのマルケスの”肘擦り模写用記念撮影セット”は秀逸で、元気の良さを示していた。けれど真摯に、送り出している”クルマ”を伝えていたのはマツダだと思った。
◆最近のマツダ車は、デザインだけでなく、とってもいい流れの中でブランドイメージを高めていると思う。それがよく現れたコーナーになっていたのだが、実は、現状の日本の枠組みのなかでは、”いいクルマ”という括りのクルマ作りができるのは、マツダとスバルしかないかもしれないという思を新たにしたのである。
◆”日本の枠組み”とは、市場のあり方と、クルマの捉えられ方である。この事実は、いかんともしがたいところにきちゃっている気がしてしょうがない。
◆例えば、最近のクルマの多くのブレーキは、よく効く。いや効くのはいい。しかし、過剰に効いちゃ困る。ブレーキは、踏力にリニアに反応してほしいのだが、最近のクルマは、おしなべて、ちょこっと踏んだだけでキュッと効く。マスターバッグが進化して、効きがよくなったのかもしれないが、そういうブレーキは、もう少しブレーキ力を強めようとしてちょこっと踏力を増すと、ガコン!とブレーキ力が上がって非常に気分が悪い。
◆想像するに、ハイヒールで運転してちょっと踏んだだけでキュッと効く方が、”いいブレーキ”と思われるのでそういうセッティングをあえて選んでいるのかもしれないが、そんな中で、マツダ車のブレーキは、実にリニアに効く。それについては、1年ほど前に書いたこちらをご覧いただくとして、そのことと”日本の枠組み”の関係性を考えてみると、ちょっと怖いことに気づくのである。
◆トヨタ、ホンダ、ニッサンなどのリーディングカンパニーは、当然のことながら市場のど真ん中を狙ったクルマ作りをしなければならない。商売なんだから当たり前である。しかし、その”市場のど真ん中”であるところの多くのユーザーは、例えばブレーキは、”ちょっと踏んだらキュッと止まってほしい”と思っている方々である。送り出すメーカーとしては、それがいいブレーキではないことを分かっていても(実はお分かりになっていらっしゃらない技術者もいるかもしれないが)営業の圧力というかお願いもあって、そういうブレーキしか提供できない。ちょっと踏んでキュッと止まる、”分かりやすいブレーキ”が、”リニアな本当は必要なブレーキフィーリング”を圧倒的に凌駕しちゃっているのである。
◆エコと減税とぶつからないクルマの宣伝ばかりして、そういう刷り込みに触れて育った子供が大人になったときに、クルマの興味をなくそうと努力している現状のクルマの広告を見るに付け、あ〜あ、しょうがねぇなぁ、と泣きたい気分になる。自分のクビを締めてどーすんの?と。
◆ビッグメーカーに対してマツダやスバルは、シェアが3〜5%だっりする。ならば、”重箱の隅をつついても、こだわりのある自分たちが信じるクルマを提供したい”という、リーディングカンパニーでは難しいエンジニアの想いが実現できる。いや、マツダやスバルにしかできなくしてしまっている”日本の枠組み”か。これはクルマに限らず、コンビニやファミレスの繁栄をみてもつくづく思う日本の姿である。
◆実はこの話は、マツダのとある執行役員から以前聞いた話なのだが、マツダが、ブレーキのフィーリングで最も大切にしているのは、”減速Gの立ち上がりの0〜0.2Gの間”だそうだ。トヨタもニッサンもホンダも、そういうブレーキは作れない、というか、作ったら売れないから作らない?
◆来週末に関西方面で3回目の試乗をやらせていただくマクラーレン650Sのブレーキが、まぁ当たり前と言えば当たり前ながら実にリニアで素晴らしかったので、デーラーの方にそれを伝えると、”レーサーの方や、運転を理解していただいている方は全員そういっていただけますが、実は、お客様の中には、よくないと仰る方がいらっしゃいます”とのことだった。要するに、ちょっと踏んでキュッと止まるのではなく、必要に応じた踏力でリニアに踏まなければならないからだ。
◆マクラーレン650Sのようなクルマを買い求めるユーザーでさえ、騙されている、というか、誤解しているのである。一般車のユーザーは推して知るべし? だから、市場のど真ん中を狙う大きな会社には、いいクルマを作れというのが無理な注文ではないか、と哀しい結論なのである。
◆マツダは、まさしく、自分たちの信じたクルマを作り、提供し、そしてお披露目する。Be a Driverのフレーズもナイス。運転中に腕が突っ張ってストレートアームになっちゃっている映像が混ざっているのはちょっと気になるけれど、真摯なクルマ作りの温度感が伝わった、という意味で、マツダのコーナーが一番心地よかったのだ。
◆さて問題は、いいクルマは作るけれど、どうやってそれを理解するユーザーを育てるか。エコと減税とぶつからないクルマの宣伝方針ではないマツダへの期待は、ますます膨らんだのだった。