マツダは次に進んでほしい。
次のステップは?
マツダ、絶好調である。モーターショーのRX-VISIONも大成功。単なるこけおどしのコンセプトトカーではなく、現状のデザインライン上にある現実的なスタイリングに具体的な夢を持てるのがいい。少々古い表現でいけば、”躍進するマツダ”である。
このままどこまで進化するのかが楽しみだけれど、その一方で、今のマツダは、今後どこまで大きくなれるかの別れ道にいる気がする。その分岐点とは、クルマ創りの進化とユーザーのニーズに由来する。
マツダは、スカイアクティブテクノロジーでエンジンも、【すべての人に「走る歓び」と「優れた環境・安全性能」をお届けするため世界一の機能を最も効率的につくる。それが、「SKYACTIV TECHNOLOGY」の出発点。そのために、マツダはクルマの基本となる技術をすべてゼロから見直しました。アベレージのクルマではなく、世界一を目指すスピリットと、常識を覆す技術革新が、この大きなチャレンジを実現させたのです】と言っているが、中でもブレーキは、この言葉がそのまま見事に活かされたクォリティである。
『乗ってビックリしたアクセラのブレーキ』についてはこちらをご覧いただくとして。
最近のクルマのブレーキは、ちょっと踏むとキュッと効く。多くの人は、そういうブレーキを高く評価する。効くと感じるからだ。しかし、これは完璧な誤解である。いいブレーキは、踏力に応じて効くブレーキであり、人の感覚と別の動きをするのは、あらゆる意味でよろしくない。
マツダの関係者から聞いた話は、感動ものだった。「ブレーキの踏力は、減速Gの0から0.2Gの部分に最も気をつかった」というのだ。これなら、カックンブレーキの権化であったプリウスのシステムを使った上記アクセラのブレーキがいい感じだった理由が理解できる。
しかし、なぜ、トヨタやニッサンやホンダがそうしないのだろうかという疑問が頭をもたげた。それに対してマツダの関係者は、見事な解説をしてくたれ。
「うちのシェアは、5%から行っても8%とかその辺り。だから重箱の隅をつつくようなクルマ創りでもいける。というか、そういう狭いシェアでのユーザーに、思ったクルマを提供できるけれど、シェアを大きく稼いでいるメーカーはそうはいかないですから」。
どういうことから言えば、多くのユーザーは、”免許の取り方は教えても、運転の仕方を教えない教習所”で運転を覚えた。いまでも、ポンピングブレーキという時代錯誤を教えている教習所である。ベーパロックを常日頃から気にしなければならなかったのは30年前の話だ。
「ブレーキをチョンチョンと踏めば、後ろのクルマに注意を喚起できる」いとう説もあるが、渋滞の中でポンピングブレーキをされたら、止まるのか停まらないのかわからなくて後続車は迷惑するだけだ。ブレーキは、速度や周辺状況に併せて、トンと踏んだから踏力を変化させないことが肝心。
たいていの人は、信号が黄色になるのを見て、なんとなくブレーキペダルに右足を移動して、だらだらと惰性で走り、最後にキュッと強く踏んで止まる。しかし、この方法だと、そのドライバーは永久に1種類の踏力しか身につかない。最後にキュッと踏めばクルマは止まると思っているから、たとえば雪道で追突する。
ブレーキを踏めばクルマが止まると思っているからだが、ブレーキを踏んで止まるのはタイヤであってクルマではない。タイヤが停まって、その結果として、路面とタイヤの摩擦によってクルマが止まるのだ。
ブレーキを踏めばクルマが止まると思っているユーザーが圧倒的に多い状況から、デーラーで試乗したときに、踏んだだけリニアに効くブレーキは、優れたブレーキなのに不人気だ。
スーパースポーツとして素晴しい完成度のマクラーレン650Sのブレーキは、凄まじくいいフィーリングで、見事に踏んだだけ止まる優れモノ。加速だけでなくブレーキングが気持ちいい。踏んだだけ止まるからだ。しかし、試乗するかなりのユーザーが、”ブレーキが効かない”というらしい。デーラーの担当は、”そりゃ、お客さんが間違っているからですよ”とも言えず、困っちゃうのだそうだ。
つまり、どんなにいいクルマを創っても、ユーザーに伝わらないのでは意味がない。ここから先、マツダがシェアを二桁に乗せるためには、クルマ創りを進化させつつ、そのクルマ創りが正しいことを認識できるユーザーの啓蒙が必要、ということだ。
20年かかるかもしれないが、多くのユーザーが正しいブレーキを理解するようになったとすると、現状の”ちょっと踏むとキュッと効くブレーキ”がまやかしであることにユーザーが気づく。そうなると市場じたいが、真っ当なブレーキを要求することになり、本当に楽しい運転が行なわれるようになる。
エンジンやサスペンションに、【アベレージのクルマではなく、世界一を目指すスピリットと、常識を覆す技術革新が、この大きなチャレンジを実現させた】というスカイアクティブ・テクノロジーの本当の到達点は、そこである、と思いたい。